浄土真宗門徒のお正月
回答者: 西原 祐治
Q1 正月を迎える前に、お仏壇のお荘厳など、整える諸準備について
Q2 お正月のお荘厳は
Q3 鏡餅の由来は
Q4 ご仏前にはお酒は供えませんか
Q5 正月のお荘厳は、いつまで飾りますか
Q6 では鏡開きは
Q7 習慣や決め事が多くありますが、注意することがありますか
Q8 縁起を担ぐ所作が多くありますが、どう考えたらよいでしょうか
Q9 元旦のお寺の法要について教えて下さい


Q1: まずはお正月を迎える前に、お仏壇のお荘厳など、整える諸準備について教えてください。


A1: 通常、お仏壇のお荘厳は31日をさける慣わしがあります。あわただしく正月を迎えることを避けることからきた習慣だと思います。しかし本山(本願寺)は、31日のお正月の荘厳を整えていますから、「ねばならない」ということではありません。東京の築地別院は、30日にお身拭う(本尊のほこりを落とす)の後、正月の荘厳を整えています。日にこだわらず、正月の前、30日、31日に整えたらいかがでしょうか。


Q2: お正月のお荘厳は。


A:  正月のお仏壇の荘厳は、人の心も新たになる時なので、仏壇を特にきれいに荘厳すべきです。三具足か五具足かは、どちらでも結構ですが、一般には三具足が多いです。
お供えは鏡餅を供え、鏡餅の上に橙を載せます。ろうそくは朱でも白でもよく、打敷をかけます。お花は、松の真を用い、梅、南天、椿、水仙などをあしらいます。



Q3: 鏡餅の由来は


A3:  鏡餅は、「お鏡」、「お供え」、「お重ね」などと呼ばれています。その由来は、古代の鏡が丸い形をしていたのでその名が残ったなどといわれています。実際、本山や別院が供える鏡餅は、均等に厚みのあるコイン型の餅です。それを五重一対お供えします。まさに鏡型の餅です。本願寺では、仏前は1枚5升のものを10枚で五重一対、祖師前は、1枚10升のものを10枚で五重一対の鏡餅を供えます。通常、お供物としては、餅、菓子、果物の序列があり、餅を最上のお供えとします。それで正月にはお餅を供えます。鏡餅は、室町時代以後床の間のある書院造りができてから、一般には床飾りとして発達し、色々なの場所に鏡餅をお供えするようですが、浄土真宗では、お仏壇などの礼拝となる場所だけでよいでしょう。



Q4: ご仏前にはお酒は供えませんか。


A4:  まず結論から言えば、一般家庭でも、お酒を供えることを否定する必要はありません。
めでたい時には、お酒はつきものです。日本書紀にも神武天皇のとき、正月の節会に群臣にお酒を振舞ったとあり、以来、即位の大礼には、酒を用いて儀式を執り行ったとのことです。
 京都・本願寺では、正月の最初の行事として、元旦に参拝者が参集する前、御酒海(ごしゅかい)の儀がご門主によって執り行われます。御酒海の儀とは、開門前の午前5時、金屏風をめぐらした鴻の間で、色衣五條の正装に身を整えた会行事(法要の最高責任者)が、御酒の入った壺から長柄の銚子にうつし、御堂内陣において、正装を整えたご門主さま自ら、三宝の御盃に盛られ御酒を、祖師聖人に献盃する儀式です。障子は、閉められたままです。会行事ただ1人を添えて、血脈のご門主と御開山親鸞聖人のご対面によるたった1人の御祝儀です。ですから、御酒海の儀は、お酒を供えるといよりも、聖人に向かい生けるがごとく対面し、新しい年の契りを結ぶ儀式だともいえます。
 その後、国宝の鴻の間で、御流盃の儀式が行われます。総長以下各代表者などが、祖師聖人からのお流れを頂きます。そして午前6時半。元旦会(修正会・しゅしょうえ)が勤まります。
 築地別院の、御酒海の儀は、元旦会の前に本尊、祖師前に、御酒をお供えし、法要後、参詣者と共に御流杯の儀と進みます。
 本山でも別院でも、お酒を供えるということがあるのです。



Q5: 正月のお荘厳は、いつまで飾りますか。


A5:  お寺によってまちまちです。通常、松の内とは、元日から、門松を取りはずす日までの期間をいいます。普通、七草の7日に取りはずすようですが、地方によっては、4日、6日あるいは15日までと様々なようです。
本願寺や築地別院では、正月4日に、正月のお荘厳をといています。本願寺では、9日から親鸞聖人の御正忌報恩講が勤まりますので、それ以前にはお荘厳をとくべきでしょう。



Q6: では鏡開きは。


A6:  お荘厳を平常に戻すと、鏡餅を下げることになります。本来は、一般には11日まで飾って、飾りを取り除くと同時に鏡餅を食べるのがしきたりといわれますが、浄土真宗では前記の通り、お荘厳をとくのが早いので、適当な時期に鏡開きをしたらよいでしょう。



Q7: 正月には、習慣や決め事が多くありますが、注意することがありますか。


A7:  正月は神道に関る習俗も多く、意味不明のまま習俗に流される必要はありません。その一番大きなものとして、門松としめ縄があります。
門松は、いまではお正月飾りのように想われていますが、もとは歳神(としがみ)の依代(よりしろ)といわれ、歳神が宿る安息所であり、神霊が下界に降りてくる目標物と考えられていました。ですから、浄土真宗で飾る必要がありません。しかし門松は立てませんが、仏華としては松を用います。
しめ縄も同様です。広辞苑 第4版(岩波書店)に【しめなわ{標縄・注連縄・七五三縄}(シメは占めるの意)神前または神事の場に不浄なものの侵入を禁ずる印として張る縄。一般には、新年に門戸に、また、神棚に張る。左捻(よ)りを定式とし、三筋・五筋・七筋と、順次に藁の茎を捻り放して垂れ、その間々に紙垂(かみしで)を下げる】とあるように、神の「なわばり」を示す印です。神代の時代、天照大神が天の岩戸からお出になった後、岩戸に縄を張り再び中に入れないようにしたことに始まります。
浄不浄を問わない、阿弥陀如来の平等な慈悲を信仰の核心とする浄土真宗にはそぐわない慣わしです。



Q8: 正月は縁起を担ぐ所作が多くありますが、どう考えたらよいでしょうか。


A8:  おせち料理が、その代表ですね。おせちとはお節句(せっく)からきた言葉です。本来は正月だけでなく、正月7日の人日(じんじつ)、3月3日の上巳(じょうし)、5月5日の端午(たんご)、7月7日の七夕(しちせき)、9月9日の重陽(ちょうよう)の五節句などの式日に用いる料理のことでしたが、今日では正月料理だけが「おせち」と呼ばれています。
 正月におせち料理が普及した理由のひとつには、おせち料理があるあいだは、家庭の主婦も台所仕事から解放されて、休養できるという意味あいがあったようです。
 おせち料理は地方の風習、家風よりさまざまですが、黒豆は「まめ(健康)」になる、田作は「田を作る」、昆布は「ひろまる」あるいは「よろこぶ」、また昆布、にんじん、こんにゃくなどを結ぶのは「むつみ合う」、といったように語呂合わせ的な縁起の由来があります。縁起を担ぐというよりも、語呂合わせを.楽しむ程度でよいのではないでしょうか。鏡餅の上に置く橙も、冬は黄色になり、春までそのままにしておくと、緑にかえる珍しい果物で、代々子孫繁栄を意味するところから鏡餅の上に載るに至った果物です。
 縁起を担ぐととの、語呂合わせを楽しむことの筋目をはっきりと立てたいものです。




Q9: 元旦のお寺の法要について教えて下さい。


A9:  お正月、1月1日に勤まる仏事を「元旦会」といいます。「修正会(しゅしょうえ)」という場合もありますが、
「修正会」という法要は、浄土真宗においては「祈祷」の意味はありませんが、本来、大寺院で、平安時代から「国家安泰」とか「無病息災」を願って(祈祷として)勤められてきた法要です。近年、本願寺派では【元旦会】または【「元旦会」(修正会)】と、修正会ではなく元旦会を強調する傾向があるのは、修正会は国家の安泰を祈るという歴史的な伝統があったので、そうした歴史的な意味や慣習を避けるための所作だと思われます。
 大谷派では「修正会」の意味を、お勤めする内容を修め正す、すなわち、和讃の繰り読みを、毎日6首をワンセットに順番に読んでいるものを(繰読といいます)、1月1日に元に戻して最初から勤め直す。「修正の会」としているようです。
元旦会は『元旦の法要』という意味です。新年を祝うと同時に今年もお念仏と共に日々を送らせていただく誓いを新たにするお正月のすがすがしい法要です。