雑誌掲載原稿
築地本願寺新報 1月号

冬のソナタに見る愛

南極の昭和基地で働いている新婚の隊員に、新妻から「あなた」と三文字だけ書かれた手紙が送られてきた。この話しは有名な逸話です。特に浦山明俊さんの『心にひびく日本語の手紙』(朝日新聞社)で紹介されて全国区の話しとなったようです。

しかし、この「あなた」は、手紙ではなく電報だった。しかも、新妻の夫を慕う万感の思いが詰まった「あなた」ではなく、お酒を飲み過ぎないように妻が夫を戒めたもの。お酒のトラブルを聞いた奥さんは、この 「アナタ」の電報に続いて「プンプン」と怒っているメッセージを送ったというのが実際だそうです。

   愛には二つの形式があります。一つは、冬のソナタのような二つのものが一つになろうとする情念です。三文字の「あなた」に見られる愛です。もう一つは、親子の愛のような本来一つであることから生まれる愛です。遠くに離れていても、離れているままに相手を気遣い労わろうとする情念です。「アナタ・プンプン」は、遠く離れていても、まさに隣に居るような二人の近さを感じます。

  浄土宗と浄土真宗、同じ六字の「南無阿弥陀仏」でも込めた願いがまったく違います。浄土宗では、私と仏が一つになろうとする「南無阿弥陀仏」です。私が一生懸命に念仏を称えて仏に向かっていくのです。浄土真宗は、阿弥陀仏が一生懸命になって、私に「南無阿弥陀仏」と称えられる仏さまになったという理解です。私と仏が、本来一つであることを「南無阿弥陀仏」と称えることを通して信知していくのです。

 世間では、冬のソナタのようは愛が受けます。壊れるかも知れないというドラマがあるからです。「アナタ・プンプン」には、ドラマはないが、本来一つであるという安心があります。




築地本願寺新報 4月号

降誕 西方寺 西原祐治

過般、地域にある公園墓地に出勤した。受付に「ご自由にお持ち下さい」と冊子が置いてあります。表紙には「墓石に刻もう一言一句・墓碑銘傑作選」とありました。近年、新設墓地に行くと墓碑に色々な言葉が刻まれています。その墓碑に刻む言葉を特集した冊子です。実際に刻まれている言葉も紹介されています。【愛・感謝・慈愛・安らかに・絆…】など今風な言葉が並んでします。しかし、多くの部分は、創作募集の文言です。

冊子にはユーモアな文言が並んでいます。【花はいらん 酒は絶やすな】【ここから出せ】【はかなくも大器晩成の夢 崩れさり】等々、多種多様な言葉が並んでいます。

 私が面白いと思ったのはこれです。いわく【化けてでません】。私たちは通常、成仏していない人が化けて出ると思っています。しかし浄土真宗の立場からいうと、成仏した人が化けてでるのです。逆に成仏していない人は、化けて出られないのです。

 親鸞聖人は本典に「弥陀如来は如より来生して、報・応・化、種々の身を示し現じたまふなり」とあります。阿弥陀様が闇に沈む私のいのちの上に、私に思われ、称えられ、感じられえる姿となって現れて下さっているということです。

さて降誕です。四月は釈尊の降誕会「花まつり」です。五月は親鸞聖人の降誕会です。私たち真宗門徒は、お二人の大切な方の誕生を降誕の言葉で表します。降誕とは、智慧の覚りの世界から、凡夫の私の世界に降りて下さったという意味です。闇に沈む私に阿弥陀さまの光がとどいた。その阿弥陀さまの光をとどけて下さった方なので降誕といいます。ようこそお釈迦さま、そうこそ親鸞さまと、私たちは喜びのご法要を致します。