耳と鼻のひそひそ話し


ある夜のことでした。耳さんがお鼻さんに言いました。「きみはいつもお顔の中心にいていばっているけど、それはずるいと思うよ。たまにはぼくと場所を交換してくれよ」。お鼻さんは驚いて耳さんに言いました。「ぼくはここで大切な仕事をしてるんだ」。耳さん「きみのお仕事は知っているよ。息を吸ったり、臭いをかいだりするんだろ。息を吸ったり、臭いをかぐくらいなら、ぼくの場所だってできるよ」。鼻さん「それもぼくの仕事だけれど、ぼくはねー、ここでお口に腐ったものや、変な臭いのするものが入らないように見張り番をしてるんだ。だからここでなきゃ駄目なんだ 」。耳さん「なーんだ、きみはそんなお仕事もしていたのか」。

 するとこんどは鼻さんが耳さんに言いました。「きみこそずるいよ。二つもあって。ぼくはここで大切な仕事をしているんだから、一つぼくに貸してよ」。耳さん「ぼくだって、ここで大切な仕事をしているから駄目だよ」。鼻さん「きみのお仕事は知っているよ。音を聞いたり、メガネのつるをかけたり、たまには宝石をぶら下げたりするんだろ。音は一つでも聞こえるし、メガネのつるだって、ひもで縛っておけば大丈夫だよ。宝石だって一つの方が安上がりだ。ねえ、いいだろう。一つぼくにゆずってよ」。耳さん「あのねー、ぼくはここでいつも寝ないで仕事をしているんだ。もしぼくが一つで、寝ている時に、その一つが枕でふさがっていたらどうなる。火事だーってサイレンが鳴っても聞こえないだろう。ぼくはいつでも、どこからでも音が聞こえるように、レイダーのような形をしてからだを守っているんだ」。鼻さん「きみはそんなお仕事をしていたのか」。そこで耳さんと鼻さんは探検に行くことにしました。

 「お口さん、きみはどんなお仕事をしているの」。「ぼくは、ご飯を歯でかんで柔らかくしたり、声を出したり、息を吸ったりしているんだ」。すると奥の方から声が聞こえてきます。「おいおい、ぼくだって、ここで大切な仕事をしてるぜ」。鼻さんが声が聞こえた奥の方をのぞきこむと、何かべろんとしたものがぶら下がっています。のどちんこさんです。鼻さんは声をかけました。「きみはいつも、ブランコみたいに上からぶら下がって、ぶらぶらぶらぶら、楽しそうだね」。のどちんこさんは少し怒って言いました。「ぼくはここで、ぶら下がって遊んでいるんじゃないんだ。ぼくはねー、ここで、ご飯がお腹に入るときは、肺といって空気を貯めていく袋に、ご飯が入らないように、空気が通る穴をふさいぐこと。それがぼくの仕事さ」。「へー、きみもお仕事しているのか」。
 
「おーい、きみたち何をしているの」。目さんです。耳さん「うん、みんなのお仕事を聞いているんだ」。目さんは得意になって言いました。「このからだは、私がいないと生きていけないのよ。なんたって、食べものだって、私が見て、食べ物か食べ物でないか判断するし、道を歩けるのも、危険から身を守っているのも、私の仕事。私がいるからみんな安心して生活ができるのよ」。

 それを聞いていた耳さんは目さんに言いました。「だけど目さん。きみは一日の半分ちかくお昼寝してるじゃないか。のんきなものだよ」。ムーとした目さんは負けじと言い返しました。「あのねー、私は好きで昼寝しているんじゃないのよ。いつも起きていて、色々なものを見たいたいの。でもそうすると、頭の中の色々なことを考えることをお仕事にしている脳さんが、熱を出してグロッキーになっちゃうの。脳さんを休めるために、お休みしているのよ」。目さんは、ますます調子に持って、昨日見たこと、今日見たことを語りはじめました。

 みんなはその目さんの自慢話をあきれて聞いていました。「ねえねえ、目さん。あなたは、何でも自分でやってるように思っているけど、それは少し甘いんじゃないの」。口をはさんできたのは、まぶたさんです。「私があなたを危険から守ったり、車のワイパーのように、いつもあなたを磨いたり、水で湿りらたりしているのよ。まつ毛さんだって、光を和らげたり、汗やゴミからあなたを守ったりしているのよ」。目さんは少し調子に乗りすぎていたことに気がつきました。

 そのようすを見ていたおでこさんはにっこりしながら言いました。「みんな大切なお仕事をしているんだね。ばくだって、何にもしていないように見えるけど、脳さんが熱を出した時、汗を出して熱を下げたり、冷たいタオルをぼくの上に置いて脳さんを冷やすんだ。また脳さんの熱で、みんなが病気にならないように、ここでみんなを遠ざけてふんばっているんだよ。たまにでこピンをやられて痛い目にあうけど、それが仕事だと思って暮らしているのさ」。おでこさんのでこピンの話しで、みんな笑い出しました。耳さんはみんなを見ると、みんなが輝いて見えました。