声明とは

「声明」は「梵唄」(ボンバイ)とも言います。梵唄とは、梵土(印度)の唄という意味です。声明は、古くから伝来すると古典的な声楽のことで、色々な経文等に曲譜を付けて、高下抑揚をするものです。
声明とは、インドの古代の学問、五明の1つ。五明とは、1,声明(文学・音楽)、2,因明(物の道理をあかす・哲学)、3,内明(倫理)、4、医方明(医学)、5,工巧明(科学)。
釈尊ご在世の頃、跋提(バツダイ)という声がよい弟子いた。あり日、釈尊に歌を歌って皆に話しかけ語りかけても良いかと願い出た。釈尊はこれを許し、5つの利益があることを示された。まず身体が疲れない。心が疲れない。音声が壊れない。記憶力が良くなる。諸天や仏法を守護する天部の神々が歓喜すると示されたと伝えられている。

往生礼讃偈

「往生礼讃偈」は、浄土真宗第5祖、善導大師の撰述によります。大師は、「往生礼讃偈」を毎日に日課として、日没(現在の午後4時)、初夜(午後8時)、中夜(〇時)、後夜(午前4時)、晨朝(午前8時)、日中(12時)の六時に勤修されたので、日没には「日没礼讃偈」というように、六時それぞれに「礼讃偈」がある。
 法然上人の教団では、毎日の日課としてこの「礼讃」が勤められ、浄土真宗にても蓮如上人まで、この「礼讃」を毎日の勤行としていた。蓮如上人がこの「礼讃」を廃し、「正信偈和讃」は刊行し、これをもって毎日の勤行とされた。そのご、寂如上人(第14代)の時、この「礼讃」を報恩講等の年中行事に用いられるようになり現代に至っている。
 現在、西本願寺ご正忌報恩講(1月9日より16日)に10日晨朝から御影堂において勤められている。これは築地別院においても同様。
*現在、京都鹿ヶ谷法然院門前に、京都市によって「往生礼讃発祥之地」と明示された石標が建てられている。
*建久3年(1192)、法然上人ので弟子である見仏という僧が八坂の青龍寺という寺を再建し、名称を引導寺と改め、師である法然上人を招いて「往生礼讃偈」を勤めた。導師は「心阿弥陀仏」、助音は「見仏、住蓮、安楽」で読み、後白河法王の追悼法要を行った。これが我が国での礼讃による「礼拝式」の始まりと言われる。

伽陀(カダ)

伽陀、ガザの音写、偈・偈頌と漢訳。法会の時に、一定の音曲をもって諷誦する偈頌。
日本において、伽陀と声明として用いたのは伝教大師に始まる。本願寺においては、覚如上人、報恩講式の式文の前後に七つの伽陀を衣用される。覚如存覚の時、天台宗にならって、伽陀和讃に節を付けて法要を定まられたとある(真宗故実伝来抄)。講式の外に伽陀を用いたのは寛文十一年十一月の祖忌に初めてこれを衣用する。良如上人以後のこと。伽陀には付物という作法があり、音曲にあわせ雅楽を奏でる。

読経作法に総禮伽陀とある。伽陀は、総禮に限らず、回向伽陀や、式文の途中にはさんである場合もある(現在本願寺派では用いない)。
先請伽陀は大経の伽陀として用いている。瓔珞は観経、世尊は小経。しかし従来は、瓔珞は小経の伽陀として用い、観経は「一一光明相続照」を用いていた。世尊伽陀は、「阿弥陀経作法」の回向句に伽陀の節を付けたもの。


正信念仏偈作法

● 現在本願寺派において、正信偈を用いる勤行は、真譜、行譜、草譜、葬場勤行「正信念仏偈作法」3種、「奉讃太子作法」2種、「広文類作法」「奉讃伝統作法」、(但し、大師影倶作法は念仏正信偈)、奉讃蓮如上人作法(第1種・第2種)です。現代の本願寺派法要作法は、「正信念仏偈」を中心として策定する傾向がある。

◇正信偈作法ー昭和44年本廟御造営慶讃法要に正信偈作法
◇昭和48年ご誕生八百年・立教開宗750年慶讃法要の折、正信偈作法第3種、一般寺院 用として正信偈作法第2種を制定。
 (第1種、三奉請・正信偈・十一句念仏・回向)
 (第2種、 三奉請・表白・正信偈・念仏・回向・奉讃早引和讃)
 (第3種、三奉請・頌讃=大衆人人皆合掌・正信偈・念仏・回向句=自信教人信・讃      =他力真宗の)4月12日よりの立教開宗法要に依用。
◇奉讃大師作法第2種ー昭和33年、大谷本廟「親鸞聖人七百回大遠忌法要」
 (三奉請・画讃(略)・正信偈・十一句念仏・回向、第一種は、頌讃・画賛)
  現在は10月15日龍谷会逮夜に五眼讃と併用。
      第1種ー昭和36年宗祖七百回大遠忌法要に新制
◇伝統奉讃作法ー昭和54年伝灯奉告法要の折制定。
◇広文類作法ー大正12年浄土真宗開宗七百年記念に制定の正信偈作法を昭和8年に改作。 (総序・正信偈・合殺・回向)御正忌15日逮夜に依用。
◇奉讃蓮如上人作法(第1種・第2種)
 第1種は平成9年、第2種は平成10年蓮如上人五百回遠忌法要のおり。
  三奉請・画讃・正信念仏偈・念仏・蓮如上人奉讃・回向(第1種は画讃なし)

● 正信偈念仏偈作法 (現在、落慶法要等でこの作法を用いるケースが多い)

  1.行事鐘 2.諸僧入堂 3.音取(持念) 4.楽 5.導師祖師前焼香 6.登礼盤
  7.止楽 8.打磬二音 9.結集座前立列 10.散華頭参進 11.三奉請(毎句散   華) 12.散華頭復座 13.結集復座 14.打磬一音 15.表白 16.打磬一音
  17.正信念仏偈 18.打磬一音 19.降礼盤(座前立列) 20.念仏(第三句以下   「阿」字散華) 21.回向 22.登礼盤(回向同音より) 23.打磬二音 24.楽   (結集復座) 25.降礼盤 27.持念 26.止楽 27.諸僧退出

無量寿経作法

総禮頌・発起序・三奉請・合殺・経段・六句念仏・成就文・回向句と呉音でとなえる。彼岸会・永代経法要・慶讃法要に用いる。

◇総禮頌
諸聞阿彌陀徳號 信心歡喜慶所聞
乃 一念至心者 廻向願生皆得往
唯除五逆謗正法 故我頂禮願往生発起序

和訳
あらゆるもの、阿弥陀の徳号を聞きて、信心歓喜して聞くところを慶び、
すなはち一念におよぶまで心を至す者、回向して生ぜむと願ずればみな往くことを得。
ただ五逆と謗正法とを除く。ゆえにわれ頂礼して往生を願ず。

出拠 曇鸞大師 『讃阿弥陀仏偈』 『真聖全』1・357-1
引用 宗祖 『教行信証』信巻(本) 『真聖全』2・51-1/『註釈版』215-11

◇三奉請
法事讃上の「行道讃梵偈」からとった偈文「奉請弥陀如来入道場散華楽・釈迦・十方」を浄土宗・融通念仏宗は、「散華楽」を略して呉音で、浄土真宗本願寺派・興正寺派では全文を呉音または漢音でとなえる。このほか奉請の曲としては四奉請(観音勢志諸大菩薩)(天台・西山・時宗・真宗)がある。(仏教音楽事典)

奉請彌陀如來 入道場 散華樂
奉請釋迦如來 入道場 散華樂
奉請十方如來 入道場 散華樂

和訳
弥陀如来を請じたてまつる、道場に入りたまえ。
釈迦如来を請じたてまつる、道場に入りたまえ。
十方の如来を請じたてまつる、道場に入りたまえ。

出拠 善導大師 『法事讃』上巻「行道讃梵偈」 『真聖全』1・575-4
備考
「四奉請」は、天台宗・浄土宗・浄土宗西山系・真宗・時宗で用いられており、本願寺派では現行の『声明集』には見られないが、『梵唄集』の「例時作法」「浄土三昧法」に見られる。

◇発起序

今日世尊 住奇特法  今日世雄 住佛所住
今日世眼 住導師行  今日世英 住最勝道
今日天尊 行如來徳

和訳
今日世尊、奇特の法に住したまへり。今日世雄、仏の所住に住したまへり。
今日世眼、導師の行に住したまへり。今日世英、最勝の道に住したまへり。
今日天尊、如来の徳を行じたまへり。

出拠 康僧鎧訳 『無量寿経』上巻 発起序・五徳瑞現 『真聖全』1・4-7/『註釈版』8-6

◇十一句念仏(合殺)
華厳宗の修二会、真言宗の理趣三昧、天台宗の引声(インゼイ)、真宗(仏光寺)の常行三昧などでとなえられる。読教行道の終わりに本尊名号を6または8または11回称えることを指している。
「阿弥陀経作法」の合殺は、例時作法に用いれられているものである。現行の阿弥陀経作法は、例時作法から、四奉請・甲念仏・経段・合殺・後唄を取り出し、多少手を加えたものである。この念仏は、無量壽経作法、奉讃太子作法などにも読誦されるが、本来は漢音である。

この念仏を「合殺念仏」というが、「合殺」の意味については諸説がある。『円光大師行状画図翼讃』巻九に『十因記』を引き「声明の法、仏号六返合して一曲となす故に合殺と云ふ殺の言は六なり」といい、また『大集経』に「復殺印あり、如来真実六入を了知す」とある。しかし、真言宗『谷響集』三には「それ合殺の名は本は学家より出でたり謂く唐の舞楽将にをへんとする時合殺の名あり、蓋し唐の目を取り以て梵楽に名づく、梵楽の儀則、読経行道するに唱首は隧を引き諸衆属して和す、その将に終らんとする曲調を名づけて合殺となす、殺の音は散なり」といい、前説を否定している。本願寺の『梵唄集』に「甲念仏」の次に「阿弥陀仏」の四字を十一声するを「合殺」とあり、玄智の『考信録』には「甲念仏合殺も例時作法に出でたり。甲念仏は六字一声(導師独唱)四字二声、合して三声なり。合殺の時は次に四字十声を加ふ(初一声は導師独唱)十一声なれども唄策には八声を列ぬ(八声の中に初の六声を唱て、また復て初の三声を唱へて、最後の二声を唱ふ)節譜の同じきものを合すればなり」とある。

原文 和訳 略

◇経段
出拠 康僧鎧訳 『無量寿経』上巻 48願  『真聖全』1・8-5/『註釈版』15-13 

◇六句念仏
念仏の出據は「法事讃」下32丁左にあり。無量寿経作法の6句念仏は、旧本三(明治43年本)の無量寿経作法の四句念仏に、釈迦・十方の二句を加えたもの。始めの「陀」にンの仮名を付けて唱えることは、現行の「正信偈六首引き」及び「声明集」の中で、各念仏に多く用いられている。ンの仮名が付く例は、「天台声明大成」(上巻80項)の八句念仏甲様、乙用に用いられている。「仏」はブ、「薩」はサと読む。

南无阿彌陀佛   南无釈迦牟尼佛
南无釈迦牟尼仏  南无観世音菩薩
南无大勢至菩薩  南无清浄大海衆菩薩  

◇成就文

諸有衆生 聞其名號  信心歡喜 乃至一念
至心廻向 願生彼國  即得往生 住不退轉
唯除五逆誹謗正法

和訳
あらゆる衆生、その名号を聞きて、信心歓喜せんこと乃至一念せん。
至心に回向したまへり。かの国に生れんと願ずれば、すなはち往生を得、不退転に住せん。
ただ五逆と正法を誹謗するものとをば除く。

出拠 康僧鎧訳 『無量寿経』下巻 正宗分 『真聖全』1・24-5/『註釈版』41-6

◇回向句

聞是法而不忘 便見敬得大慶
則我之善親厚 以是故發道意

和訳
この法を聞きて忘れず、すなはち見て敬ひ得て大きに慶ばば、
すなはちわが善き親厚なり。これをもつてのゆゑに道意を発せよ。

出拠 支婁迦讖訳 『平等覚経』巻二 『真聖全』・100-12
引用 宗祖 『教行信証』行巻 『真聖全』2・8-5/『註釈版』145-11



大師影供作法

◇五眼讃は、10月16日龍谷会(大谷本廟の報恩講法要)

◇頌讃

如來興世之正説 奇特最勝之妙典
一乘究竟之極説 速疾圓融之金言
十方稱讃之誠言 時機純熟之眞教

和訳
如来興世の正説、奇特最勝の妙典、
一乗究竟の極説、速疾円融の金言、
十方称讃の誠言、時機純熟の真教なり。

出拠 宗祖 『教行信証』教巻 『真聖全』2・4-10/『註釈版』138-12

◇画讃

韜名愚禿畏人知 高徳彌彰澆季時
誰了如來興世意 直標淨典屬今師

和訳
名を愚禿に韜して人の知るを畏る、高徳いよいよ彰わる澆季の時、
誰かしらん如来興世の意、直ちに浄典を標して今師に属す。

出拠 大谷本廟の祖壇に奉懸される宗祖御影の讃文。14代寂如宗主の作。

画讃を唱詠することは、魚山声明の伝教大師影供作法の例に依る。
本願寺歴代の遠忌法要には、それぞれの画讃が唱えられることがある。

◇念佛正信偈

出拠 宗祖 『浄土文類聚鈔』  『真聖全』2・447-11/『註釈版』485-3 

譜は魚山声明「例時作法」の「五念門」の切音譜(きりごえふ)に依る。

◇回向句(甲)

稽首阿彌陀兩足尊 敬禮常住三寳 敬禮一切三寳
我今歸依 釋迦善逝 見眞大師 傳燈諸師
願以此功徳 平等施一切
同發菩提心 往生安樂國

和訳
阿弥陀両足尊を稽首し、常住三宝を敬礼し、一切三宝を敬礼したてまつる。
われいま釈迦善逝、見真大師、伝灯諸師に帰依したてまつる。
願はくはこの功徳をもつて平等に一切に施し、
同じく菩提心を発して、安楽国に往生せん。

出拠 魚山声明に用いる「六種回向」の文に依って造句(1行目は十二礼文の初句より造語)された今集の回向句である。
「願以此功徳」以下は、善導大師 『観経疏』玄義分 『真聖全』1・442-2/『註釈版』1453-1


◇回向句(乙)
原文 願以此功徳 平等施一切
同發菩提心 往生安樂國
和訳 願はくはこの功徳をもつて、平等に一切に施し、同じく菩提心を発して、安楽国に往生せん。
出拠 善導大師 『観経疏』玄義分 「帰三宝偈」終わりの4句  『真聖全』1・442-2/『註釈版』1453-1