おつとめ着

 急に出直された79才のおばあさん。少しづつ老人ボケが始まりタンスにぎっしりあった着物はカラッポ、捨てたのか人にあげたのかわからない。何を着せればいいのかと戸惑う家人に、私は母の古いおつとめ着を「これ着せてあげて」と差し出した。別席は三席まで、おさづけは頂いていない。
 嫁に行った一人娘のお墓には入れないと、丁度十年前に出直されたご主人は豊田山舎に、そしていずれ私もと願っておられた。少しづつ病気が進んでいたのか、おぢばから大阪、枚方の自宅までタクシーで帰って、自宅の場所が分からずにえらく金をとられたと愚痴をこぼしておられたこともあった。
 以前は私に服や袋を買ってきては、良かったら使って下さいと心に掛けて下さっていたのだが、病気は確実に進み、その言葉や行動に明らかな痴呆症状が現れるようになってきた。これから段々と家の人たちの負担になっていくのは大変やなぁと思っていた。その矢先、突然夜中に安らかに出直された。御守護だったのだと思う。
 どこもかしこも空っぽのタンス。しかしそのおかげで、はじめておつとめ着を着ることのできたおばあさん。その姿なら豊田山舎に喜んで入れていただけるのではないかしら、と思った。「後のことはしっかりやっていきます」という娘夫婦のひと言が私は嬉しい。