最強の剣士

宝箱を回収するバドの護衛としてついて来たジュリアは、洞くつの奥から増援が湧いて出たのを察知して身構えた。
「先に行ってて!!」
「えっ、何?」
まだ気付いていないバドは、急に真剣な顔で立ち止まったジュリアに驚いた。
「増援よ。私がここで食い止めて時間を稼ぐから、あなたは先に行きなさい。」
「でも……。」
「グズグズしないで。あなたに居られると足手まといなのよ!!」
間もなくガーゴイルの大群が追い付いて来る。この足場の悪い洞くつの中では、他人の面倒まで見切れないし、少しでも時間を稼がないとバドは簡単に囲まれてしまう。
怒鳴られたバドが反射的に駆け出して行ったのを確認して、ジュリアは少し狭くなっているポイントに陣取ってガーゴイルがやって来るのを待ち伏せした。

洞くつの中央付近の開けたところで集まって居たホ-ムズ達の元に、バドは息を切らせてやって来た。
「やっと来たか。おい、ちゃんと宝物は回収して来たんだろうな?」
バドは肩で息をしながら、ホームズに宝物を全部渡した。
「よしっ、と。ところで、ジュリアはどうした?」
「ぞ、増援……。ゼィ、ゼィ……。」
全力で駆けて来たバドは、まともな説明など出来なかった。そんなバドにプラムがそっと水を差し出す。
ゆっくりと水を飲んで呼吸を落ち着けたバドは、事の次第をホームズに話した。
「何だと~!?」
「えぇ~っ、ひっど~い。いくら何でも足手まといはないわよねぇ。」
ホームズの緊迫した声を、リーリエが掻き消した。
「そりゃ、確かに戦力的には役に立たないかも知れないけどさぁ。」
「リーリエの方がよっぽど酷いよ。」
脳天気に繰り広げられるリーリエの文句に、アトロムが横からその口に手を押し当てた。そして、ホームズの方を仰ぎ見る。
「ジュリアさんがそこまで言ったって事は……。」
「面倒な相手か量が半端じゃないか。どっちにしても、すぐに救援に向わねぇとな。おい、行くぜ、シゲン。」
だが、振り返ったホームズの目にはシゲンの姿は映らなかった。
「あれ? シゲンは?」
キョロキョロと辺りを見回すホームズに、メリエルが呆れたような声で応じた。
「あの人なら、バドか戻るなり入れ違いに走って行ったわよ。」

増援をある程度やっつけたら自分も引くつもりでいたジュリアだったが、思ったより敵は用心深く、数がまとまってから一気に仕掛けて来たため、引くに引けなかった。回りにスペースを開け過ぎてしまえば、ジュリアを無視してバドを追って行く個体も出てしまうだろう。彼女が完全に逃げ切れるだけの時間を稼ぐまでは、ジュリアは1体としてここから先に敵を進ませる訳には行かなかった。
そして、時間を充分に稼げた時には敵はかなりの数になっており、今度は引けば多勢に無勢という状況になって居た。
襲い掛かる敵を次々と切り捨てていったジュリアだったが、倒しても倒しても敵はまだまだ多かった。気がつけば、手持ちの剣は残り1本。それも、もう限界だ。
「きゃっ!!」
最後の剣が砕け散り、ジュリアの腕をガーゴイルの爪が掠めた。次の攻撃に対して、この場で避けるかそれとも引くか。
とっさに一歩引いてから一気に駆け出そうとしたジュリアの横を、何かが通り過ぎると背後でガーゴイルの断末魔が響いた。
「えっ?」
振り返ると、そこにはシゲンの背中が見えた。それはすぐに正面へと変わる。
「無事か?」
「ええ、かすり傷よ。なめとけば治るわ。」
ガーゴイルの爪に引っ掛けられた腕を押さえて、ジュリアは強がった。すると、シゲンはジュリアの腕を引っ張って傷口に口をつける。
「ちょ、ちょっと、何やってるのよ!?」
「なめときゃ治るって言ったのはお前だ。」
「だからって……。あっ、後ろっ!!」
ジュリアの目の前で、シゲンの頭にガーゴイルの腕が振りおろされた。
だが、予想に反してシゲンは軽く眉をひそめただけだった。そして、目をつり上げると先程収めた剣を抜き放ち、敵の群れに突っ込んで行った。
派手な音が鳴り響き、様々な色の光が舞い散ったかと思うと、ガーゴイルの群れは全滅しておりシゲン1人が無傷で立っていた。
「ったく、野暮なモンスターどもだぜ。」
呼吸を乱すこともなくシゲンは剣を鞘に収めて呟いた。
「シゲン、怪我は?」
「俺は何ともないぜ。」
そうは言うが、確かにジュリアの目の前でシゲンはガーゴイルに頭を殴られたはずだ。
「だって、頭……。」
「ああ、当たったな。」
「当たったな、って……。」
ジュリアは背伸びして、シゲンの後頭部に手を伸ばした。
「……コブも出来てない。」
「フッ、俺はお前と違って頑丈なんだよ。」
シゲンは軽く笑うと、目を丸くしているジュリアを連れて皆の元へと引き返し、後からのこのことやって来たホームズに「遅いっ!!」とケリを入れたのだった。

-了-

《あとがき》

初書きのシゲン×ジュリア創作です。
ゲームを中盤まで進めたところでシゲン兄さんのお相手候補としてはクリシーヌとシエラさんとジュリアが用意されていると聞き、迷うこと無くジュリアを選びました。理由は、義兄妹カップルが好きなのとシゲン兄さんとジュリアがそれぞれ好きなキャラだからです。私の場合、クリシーヌにはヴェガだし……。シエラさんにはお気の毒なことをしたけれど、うちでは彼女は碌に役に立ってくれてませんから、まぁいいでしょう(^^;)
ちなみに、このシゲン兄さんの頑丈さは実話です。
うちのシゲン兄さんは、ザカリアより固いです!!
Def19のソードマスター(笑)
当然、LV40でSklもMAXで『竜聖の技』持ちで撃破数は全キャラ中トップv(^^;)
シゲン兄さん、ラストマップではシーフソード持ってカルラを追っかけ回してましたが、横から茶々入れて来た他の敵を無造作に返り討ちです。
ジュリアもかなり強かったんですが、やはりStrとDefは伸び悩みましたので、技が出ないと辛かったです。
今回のお話は、そんな2人の様子を描いてみました。シゲン兄さんてば、背後にジュリアがいる所為か必殺率良すぎです(^^;)

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