ずっと傍に居る

「逝かないで、忍人さん!目を覚まして……ずっと傍に居てください」
即位の式典を終えて戻って来た千尋は、そこで忍人の訃報を知らされた。
清められた遺体は安らかな表情で静かに眠っているようにしか見えず、対面した千尋は泣き縋って揺り起こそうとするが、無論それで忍人が目を覚ますことはなかった。
「…………二人だけにして……お願い」
皆に部屋の外に出て行ってもらうと、千尋は忍人の遺体に寄り添って本格的に泣き出した。

「泣かないでくれ。俺はいつでも、君の傍に居る」
忍人の声が聞こえた気がしてハッとした千尋は、自分が泣き疲れて眠り込んでいたことに気付いた。
慌てて跳ね起きると、外から遠夜の声がする。
「神子……入って良い…?」
何かあったのかと千尋が入室を許すと、他の者達も一緒になだれ込んで来た。
「千尋……大丈夫ですか?」
「あまりお気を落とされませんように……最後まで我が君をお守り出来て、忍人は本望だったことでしょう」
皆が口々に千尋を励ます中、遠夜も千尋に言う。
「泣かないで……神子…………忍人は……いつも神子の傍に居る」
「うん、そうだね、遠夜。さっきも、忍人さんの声を聞いた気がするんだ。そう、忍人さんは、いつだってここに居るよ」
そう言って千尋が自分の胸に手を当てると、遠夜は静かに首を振った。
「違う……神子…………後ろ……」
「後ろ?」
千尋と布都彦は不思議そうに小首を傾げ、風早と柊と那岐が「うげっ」と言うような顔をした。
「忍人は……和魂となって……神子を守っている」

「神子……忍人が…………一人で出歩くな……と言ってる」
執務を抜け出して息抜きに森を散策していた千尋に遠夜がそう告げると、千尋は自分の頭の後ろ辺りを意識しながら応えた。
「ふふふ……一人じゃありませんよ。忍人さんが一緒です」
自称・守護霊となった当初は勝手が解らず見守ることしか出来なかった忍人だが、徐々に力を付けて、敵を威圧する術を会得していた。おかげで、生半可な凶手や暴漢では千尋をどうこう出来ない。
  信頼してくれるのは嬉しいのだが……俺も万能ではない
「神子……忍人が……困ってる」
そうやって、遠夜の通訳で3人はしばしお喋りに興じる。
生前は遠夜の声が聞こえなかった忍人も、今は遠夜とは普通に会話出来た。代わりに、千尋には忍人の声が聞こえない。
それでも千尋には、この時間が楽しくて仕方ない。これを励みにまた執務に戻り、そして時折夢の中で忍人との束の間の逢瀬に想いを募らせ、千尋は女王として豊かで平和な国を築いて行くのであった。

-了-

《あとがき》

千尋の「ずっと傍に居てください」に応えて守護霊になってしまった忍人さん。 妖に近い存在なので、遠夜とは普通に会話できるようになりました。
そして、遠夜を介したり夢で逢ったりして千尋と交際(?)しています。
とりあえず国は豊かで平和になったかもしれないけど、これだと女王は生涯独り身?(^_^;)q

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