狼と羊飼い
このお話は、大変ベタな、腐女子向けのお話となっています。
      「それでも大丈夫」と思われる方のみ、本編へお進みください。
    抵抗のある方は、数多の書の目次へお戻りください。
昔々あるところに、忍人という青年が居りました。
      彼は、千尋という姫の元に参じて、天翔ける船で祖国解放の旅をしていました。
    旅を続けて行くうちに、最初から居た風早と那岐に加え、布都彦、柊、道臣と仲間がどんどん増えて行きました。
    中でも柊は、忍人のことが大好きでした。そこで、戦いに見張りに兵達の訓練にと、人の何倍も身体を酷使している忍人を見て、一計を案じました。
ある日のことです。忍人の部屋から、二人の声が聞こえて来ました。
      「痛っ!」
    「はい、はい、痛いのは最初だけですからね。すぐに気持ちよくなりますから…………ほら、力抜いて…」
    「やめろ、触るなっ!! 放せってば、この…………乗るな!」
    「いいから、大人しくする!」
    「あぅっ…」
    「ここ、イイみたいですね。ああ、ですが、ちょっと強過ぎましたか? では、このくらいなら…」
    「…あっ……ん…」
    「ふふ…どうです、気持ちいいでしょう?」
    「…はぁっ……あぅっ……んぅ…………」
部屋の前に張り付いたまま動けない者が多い中、千尋は果敢に戸に手を掛けました。
    「何となくオチが見えてる気がするけど…………こらっ、柊! 忍人さんに、何やってんの!?」
    振り向いた柊は平然と答えました。
    「指圧マッサージです。随分とお疲れのようでしたので…」
それからしばらくして、また忍人の部屋から二人の声が聞こえて来ました。
      「だから、やめろと言ってるだろう!」
    「いいから、いいから…」
    「離せ、こらっ! 抱き付くんじゃないっ!!」
    「ほら、暴れない。余計な力入れてると、怪我しますよ。手は此処、ゆっくり息を吐いて…………さぁ、いきますよっ!」
      「……んふ…………ふぅっ…」
      「ふふ…いいですよ、その調子です。そのまま、私に呼吸を合わせて……」
      「ひひひ…柊殿! 一体、葛城将軍に何をなさってるんですかっ!?」
      真っ赤になって飛び込んで来た布都彦が目にしたのは、服を着たままで柊に絡み付かれて妙な身体の捻じり方をしている忍人の姿でした。
      不思議そうに見つめる布都彦に、柊は事もなげに言いました。
    「整体です。身体の歪みを直して疲労回復を図る、体術みたいなものですよ」
またある時は、風早も含めて3人の声がしました。
      「離せ、風早! 何だ、お前まで一緒になって……いい加減にしろ! 本気で俺に、そんなものをぶっ刺す気か?」
    「大丈夫ですってば、本当に痛くありませんから…」
    「下手に動かれると手元が狂って痛い思いをさせるかも知れませんけどね」
    「……って、こら、捲るなっ、撫でるな!」
    「はい、動かない、動かない」
    「では、まず1本……どうです、痛くないでしょう?」
    宥めるような風早の声に次いで、柊が嬉しそうに言うと、忍人は不思議そうに尋ねました。
「えっ、今、本当に刺したのか?」
    「ええ。それでは、もう1本……如何ですか?」
    「……確かに、痛くはないな」
    「それでは、今度はもう少し深く刺しますね。はいっ、そして更にもう1本…」
    「…ん……痛くはないが、なんか変な感じがする」
    「おや、どんな風に…?」
    「身体が奥から熱くなってくるような……」
    部屋の前で耳をダンボにしたまま動けずに居る兵達を掻き分けて、那岐が無造作に戸を開けました。
    「まぁ、想像通りの光景だけどさ……何やってんのか、こいつらの為に説明してやってくれる?」
    風早と柊は声を揃えて答えました。
    「文献にも記された、古式ゆかしい鍼治療です」
      そんなある日のこと。今度は道臣の耳に、激しく暴れるような音と二人の声が聞こえて来ました。
      「痛っ!! やめろっ、痛過ぎる!」
      「それは聞き分けのないあなたが悪いのです」
      「お前……絶対、わざと痛くしてるだろ!」
      「そんなことありませんよ。ほら、逃げないでください。こうしてグリグリされると確かに最初は激痛が走るでしょうけどね、そのうち得も言われぬ快感が全身を駆け巡るようになって、いつしかすっかりコレの虜に……」
    「……っ…!」
    「どうです、背筋がぞくぞくするような痛気持ち良さでしょう?」
    「……や…やめ…………痛い……やだっ、やめてくれ!」
    「おや、『虎狼将軍』ともあろう者が、このくらいの痛みで泣き言とは情けない」
    「それとこれとは話が別だ。頼むから、もうやめて……」
    「ななな、何やってるんですか!? 忍人に不埒な真似は許しませんよっ!!」
    駆け込んで来た道臣に、柊はしれっとして言いました。
    「……ツボ押し棒で、足裏を押してるだけですけど…」
そんなことが繰り返され、いつしか周りは彼らのこんな遣り取りに注意を払わなくなりました。
      そして、ある日、とうとう本当に忍人が柊に襲われても、誰も助けに飛び込んでは来てくれませんでした。
      こうして柊は、既成事実を積み重ね、ついには忍人を完全に手に入れてしまいました。
    めでたし、めでたし。
-了-
《あとがき》
キャラあて込みの御伽噺もどきです。
    忍人さんにとっては全くめでたくありませんが、柊にとっては”めでたし、めでたし”です(*^_^ ;)
柊は意図的に誤解を招く文言を選んでますが、忍人さんはそんなつもりもなく結果として「狼が来たぞ~」って叫んでるようなことになっています。
    おかげで、本当に狼が来た時には誰も助けに現れず……忍人さんは、柊の計略にまんまと踊らされて、美味しく食べられてしまいました。

