おやゆび姫

昔々あるところに、金髪の双子の兄妹がおりました。
兄の名は那岐、妹の名は千尋と言いました。
二人は、その金の髪色から迫害されて、森の中でひっそりと暮らしていました。

ある日のことです。近くの領を治めるレヴァンタが越境して森に入り込み、千尋を見かけて強引に連れ去ってしまいました。
「姫……姫…」
牢の中で千尋が途方に暮れていると、外から声をかけて来る者があり、程なく扉が開かれました。
「私が手引きします。どうか、お逃げください…我が君」
柊と名乗った青年は、千尋を外まで誘導してくれました。
「こんなことをして、あなたは大丈夫なの?」
「お優しい姫……私のことなど、お捨て置き下さい。姫の幸せこそが我が幸せ。例えこの身が砕けようとも、姫をお守り出来れば本望にございます」
「……それって、やっぱり大丈夫じゃないってことだよね?」
「いいえ、あくまで万一の話です。そう簡単にバレるようなヘマは致しませんのでご安心ください」
そうして柊はレヴァンタの邸へと引き返して行きました。

柊と別れて、那岐の元へ戻ろうと森の中を歩いていた千尋の頭上から、1枚の羽根が降って来ました。
「拾っちまったな、お嬢さん」
頭上から声も降って来たと思ったら、千尋の身体は宙に浮いていました。
サザキ達によって何処かの山へと連れ去られた千尋は、今度は隙を見て自力で逃げ出しました。

今度こそ那岐の元へと戻ろうとしていた千尋でしたが、途中で道に迷ってしまいました。
行き倒れになりかけた千尋を助けてくれたのは、神殿に仕える狭井君でした。狭井君は千尋に、神殿で修行をすることを勧めました。
「でも、那岐のところへ帰らないと…」
話を聞いた狭井君は、ここで千尋が立派な巫女となれば那岐も呼んで堂々と暮らせるのだと説きました。
そこで千尋は、那岐の元に使いを出してもらうことにしました。しかし使いの者は、途中で姿を晦ましました。

いつまで経っても那岐から何の連絡もないまま、千尋は日々の修行に励んでいました。
この神殿には、この辺りを統べる常世の皇アシュヴィンがよく顔を出しました。
「ほぉ、珍しく若い娘がいるようだな」
それからアシュヴィンは、神殿にやって来ては千尋と短いながらも言葉を交わすようになりました。

ある日のこと。千尋は近くで異形の獣が蹲っているのを見つけました。
「大丈夫?待ってて……今、手当てを…」
千尋は有り合せの布と薬草で、白麒麟の手当てをしました。
白麒麟は、怪我が元でか高い熱も出していました。千尋はその身を隠せそうなところまで連れて行くと、こっそり毎日通って、必死に看病を続けました。

白麒麟が治りかけた頃、狭井君が千尋に言いました。
「おめでとう。アシュヴィン陛下がそなたを妃にお迎えしたいとのことですよ」
千尋はショックでした。アシュヴィンのことは嫌いではありませんでしたが、いきなりそんな話を本人の承諾もなく決めてしまうなんて、何て酷い人なのだろうと思いました。
神殿を飛び出した千尋は、気が付くと白麒麟の隠し場所へと足が向いていました。
ところが、そこへ行くと白麒麟の姿はありませんでした。
「何処へ行ってしまったの?」
治ったらさっさと何処かへ行ってしまったのかと思って、千尋は泣きました。
「泣かないで…」
声がして、振り返ると、そこには那岐を乗せた白麒麟が浮いていました。千尋から話を聞いていた白麒麟は、動けるようになるとすぐに那岐を捜しに行ってくれたのでした。
「あなたの望むところへ、何処へでも連れて行きます」
「だったら、ずっと遠くへ……私達が迫害されない、物みたいに扱われない世界へ連れて行って!」
千尋が泣きながらその背に乗ると、白麒麟は軽々と時空を超えました。

それから千尋と那岐と白麒麟から人に変化した風早は、皆で仲良く別世界で暮らしました。
めでたし、めでたし。

-了-

《あとがき》

キャラあて込みの御伽噺もどきです。
千尋は親指大などではありません。親からは可愛がられるどころか迫害されています。そして、那岐とは兄妹です。

おやゆび姫を元ネタにしたドラマCDを聞いて、自分があんまりこの話を覚えていないことに気付かされました。
覚えてたのは、親指大の姫が傷ついたツバメを助けて、後に元気になったツバメに乗って王子様の元へ行ったことくらい(-_-;)q
で、この時点で助けた風早に乗って時空を超えた千尋と少しは重なった訳ですが……これだけなら浦島太郎とも重なる訳で…。その後、元のお話をちょっと検索してみたところ、ツバメを助けるまでに何度か攫われ、また助けられを繰り返している光景に、他のキャラも重なり始めました。

元の話のラストはおやゆび姫が同サイズの王子に出会ってハッピーエンド。となると、王子役は那岐ってことになるのでしょう。
ただ、それだと風早が那岐の仕えていたことになってしまうし、そもそも王子役なら忍人さんにやらせたいし、などと考えた結果、ラストは葦原家オチとなりました。
おかげで忍人さんは出番なしです。

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