未来への約束

「風早が来てから、二ノ姫は以前にも増して良く笑うようになったな」
「ええ、それだけ姫が幸せを感じておられるのでしょう」
二ノ姫は、俯いてばかりだった昔に比べれば年々明るくなっていた。しかし、今は本当に幸せそうによく笑う。忍人でさえ、つい微笑ましいと思ってしまうくらいだ。
「だが、身元の確かでない者を姫の傍近くに置いておくのは危険ではないのか?」
「忍人の懸念はよく解ります。ですが、彼が二ノ姫に危害を加えることはありませんよ。そして、二ノ姫の大切な者達にも仇成すことはありません」
自信たっぷりに言い切る柊に、忍人は軽く肩を竦めて見せる。
「お前がそこまで言い切るなら、信じることにしよう」
「ふふふ…珍しいですね。あなたが私の言葉を素直に信じるなんて…」
「お前は嘘つきだが、予言めいたことは外れた例がない」
それが伝承に残る星の一族の血を引いているからなのか、それとも柊個人の力なのかは解らないが、とにかくこれまでに柊がこのように言い切ったことで実現しなかったことは一つもなかった。
「アタシもあいつは大丈夫だと思うね」
「師君!?」
「あいつは、アタシに弟子入りはしたが、もう教えるべきことなんぞないね。大事なことは全部知ってるよ。せいぜい、折に触れて年長者としてちょいと助言してやるくらいのもんさ」
岩長姫まで太鼓判を押すとなると、忍人はもう風早を疑う気などなくなった。

「皆とは上手くやっていけそう?」
「ええ、先生も良くしてくれますし、皆もあの頃とあんまり変わりません。柊なんて、いろいろ知ってるみたいですし…。違いなんて、忍人に兄弟子だと思われてないことくらいです。その忍人も別に俺に対して兄弟子面する訳じゃありませんし、元々あの頃も彼が兄弟子扱いしてた相手は道臣だけでしたから何ら問題有りませんよ」
岩長姫達が温かく見守る中、千尋と風早は楽しくお茶を飲んだり花冠を作ったりしていた。今はまだ、風早は千尋の部屋までは行けない。千尋の方から訪ねて来ないと、こんな風に過ごすことは出来ないのだ。
しかし、それもいつまでも続く訳ではない。
「そうそう、先生が後見についてくれることで、俺はまた千尋の侍従になれそうなんですよ」
「えぇっ、ホント?そうしたらもっといっぱい一緒に居られるね」
「はい、また堂々と千尋の部屋に出入り出来ますし、髪を結ったりお茶を煎れたりする権利も独り占め出来ます」
「うふふ…楽しみだなぁ」
千尋は心の底から幸せそうな笑みを浮かべる。
「その調子で、いつかは私も独り占めしてくれる?」
「はい」
即答してから、風早はちょっと苦笑する。
「先に言われちゃいましたね。出来ればもっと足元を固めてから、俺の方から言いたかったのに…」
「大丈夫だよ。肝心な言葉は、風早の為にとってあるもの。その時が来たら、風早に言わせてあげる。だから、ちゃんと言ってね」
「ええ、勿論です。その時を楽しみにしていてください」

「ああ、本当に姫は幸せそうですね。あのように微笑まれて……忍人、あなたも姫の変化を見習って欲しいものです」
「何を見習えと言うのだ?」
首を傾げる忍人の頬に、柊は手を伸ばした。
「もう少し笑ってみませんか?」
頬を引っ張られて、忍人はその手を払うと、すかさず武器を構える。そしていつものじゃれ合いが始まった。
そんな平和な光景を、岩長姫は楽しそうに見守るのだった。

-了-

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