「我が君の望みを叶えることが、私にとって至上の喜び。さあ、何なりとお命じ下さい」
「ふふっ、そんなこと言ってると無理難題を押し付けちゃうよ」
「ええ、それこそ私の望むところです。困難が多ければ多いほど、叶えて差し上げることが出来た時の喜びは大きくなるというもの」
言い募る柊に千尋は微笑みかける。
「我が君には、何か思うところがおありのご様子。どうぞ、この柊に仰って下さい。我が君のために、力を尽くしましょう」
「じゃあ、言うよ」
柊に促されて、千尋は願い事を口にした。
   狭井君を消して
自分を利用して狭井君がこれ以上力を増す前に、意に染まぬ自分を蔑ろにする前に、そして柊が消される前に、邪魔者は取り除かなくては……。
「御意。あの御仁は私にとっても邪魔な存在。以前より策を講じておりました。我が君のお許しがあったからには、すぐにも実行に移しましょう」
「ただ消すだけじゃだめだよ。誰の目にも自然死に見えるようじゃないと……」
国の重鎮が殺害されたとなれば、派手に犯人探しが始まる。誰が犯人として捕まったにしても、柊に疑いが向くことは避けられないし、千尋の周りの警備が厳しくなってこうして柊に会いに抜け出すことが難しくなるのは必定だ。

「それは確かに難題ですね」
「ふふふ、前言撤回してみる?」
「いいえ、撤回など致しません。このような難題を我が君の御心に沿うよう解決出来てこそ、この柊がお傍におります意味があるというもの。見事成し遂げた暁には、さぞや素晴らしい褒美を賜る事が出来るものと、期待に胸が膨らむ思いにございます」
「うん、もちろん素晴らしいご褒美を用意して待ってるよ。多分、繰り返される既定伝承の中でそこに居た数多の柊がどうしても手に入れたいと思って叶わなかった、至高の一品だよ。だから吉報だけを待ってるね」
「ええ、万事心得ております。お任せください。全ては我が君の御為に……」
そして、自らの幸せの為に……。

しばらく後に狭井君は体調を崩し、程なく静かに息を引き取った。
中つ国の復興と新女王の即位、それらを見届けて気が抜けたのだろうと誰もが語った。
その死に対して充分に哀切の意を唱えた女王が、狭井君に変わって傍らで自分を支える者を欲して婿をとることを、表立って反対する者は居なかった。
そうして、柊は誰よりも近くで千尋に接することの出来る立場と、千尋自身を手に入れたのだった。

-了-

《あとがき》

ゲームをプレイ中、柊から「何なりとご命令を」発言がある度に、「狭井君を殺せ」と心の中で命じていたLUNAです。
似たような事を考えていた神子様は少なくないものと信じております。
柊の書EDまでには何度もリプレイが必要で、当然それだけあのババァには辛酸を舐めさせられるので、鬱憤溜まりまくりです。
そんな訳で、創作の中で柊に命じてみました。
あの甘い雰囲気漂うEDスチルの陰で交わされる危険な内緒話でございます。

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