ぽぽぽ(さんぽ)

ここはバージルの町。
最近の名医ワラムルは、退屈とは無縁の日々を送っていた。というのも・・・。
「ワラムル先生、おっはようございま~す!!」
「また、LUNAくんか。今日はどこへ行くつもりなんだい?」
「『近くの山』ではお気に召しませんか?」
「まぁ、いいだろう。」
「やった~!それじゃ、早く行きましょう。」
LUNAは、そう言うなりワラムルの腕を引っ張って、外へと連れ出していった。

アトルシャン達が魔王を倒したとは言え、町の外にはまだ魔物達がうろついており、外へ出かける者などいないかに思われていた。
しかし、LUNAは毎日のようにワラムルを誘っては外に出かけて行った。しかも、出歩く先は町の近隣にはとどまらず、危険な山(今日の行き先である『近くの山』も、かなり危険な場所の一つである)や海岸辺りまで散歩していたのである。はっきり言って、LUNAが半ば強引にワラムルを引っ張りまわしているのだが、目的が性に合ってる所為かワラムルの方もそれ程迷惑とは思っていないらしく、毎回つきあってくれていた。
その目的は、第一に患者探しである。
「先生、あそこに何かあります。」
LUNAくん、何かじゃ分からないよ。」
「えぇっと、人が倒れてるみたいです。ちょっと行ってみます。」
LUNAは、倒れているものに向かって駆けていった。
「先生、人間の死体です~!」
「だったら、さっさと戻ってきたまえ。」
ワラムルは冷ややかに言い放つと、『近くの山』へ向かって歩き出した。
「あっ、待って下さ~い。」
LUNAは、急いで死体の懐を探って何かをつかみ出すと、慌ててワラムルの後を追った。

LUNAがワラムルを必死に追い掛けていくと、ワラムルが途中で立ち止まって待っていてくれた。と言っても、決して親切心などではないことは、彼を知っている者ならば容易に想像が付くだろう。
LUNAくん。さっきの死体から盗ったものを出したまえ。」
「これのことですか?」
LUNAは、先程の死体から奪ってきた『新種のキノコ』を差し出した。
「ふむ。実に面白い素材だ。」
「何か面白い薬ができそうですか?」
「そうだね。新しい秘薬が作れそうだな。」
「お役にたてて良かったです。」
LUNAは、ワラムルの喜ぶ顔を見るのが好きだった。
「ほら、ぐずぐずしてないで。『近くの山』へ着く前に日が暮れたら笑うしかないよ。」
「は~い。」

道中、いろんな行き倒れを発見しつつも生きている者はおらず、ワラムルの機嫌は決して良くはならなかった。それでも二人は昼近くには『近くの山』の中腹で、外出の第二の目的である薬草採集に燃えていた。いや、燃えていたのはLUNAだけで、ワラムルはLUNAの採ってきたものを図鑑と照らし合わせて分類しながら、LUNAが担いできた弁当を食べていた。
LUNAくん、きみも食べるかい?」
「いえ、私はもう少しあちらの方を調べてからにします。」
「あまり、遠くへ行かないようにね。」
「は~い。」
そうして元気に駆け出していったLUNAの声が悲鳴へと変わるまでは、そう長くはかからなかった。

悲鳴を聞いてワラムルがLUNAの元へと駆け付けた時、LUNAはワーウルフの大群に囲まれて姿が見えなくなっていた。
しかしワラムルは、落ち着き払って群れの中心に向けて声をかけた。
LUNAくん、生きてるかい?」
「は~い、生きてます~!」
群れの中から、脳天気に答えるLUNAの声が聞こえた。
「動けるかい?」
「狭くてうごけませ~ん!それに、あちこち折れちゃってます~!」
LUNAは泣きそうな声で答えた。
「それじゃあ、助けてあげよう。」
ワラムルはそう言うなりポケットから薬瓶を取り出し、状況と会話の雰囲気のギャップに混乱していたワーウルフ達に近付くと、薬品を浴びせかけた。
ジュワワワ~~~。
怪し気な臭いを振りまきながら、ワーウルフ達の体が焼け焦げていった。
更に「ワラムルのメス」が飛び、逃げようとしたワーウルフを行動不能に陥れた。
ワラムルは、笑いながらワーウルフ達の中から生きているものだけを選り分けて簀巻きにしながら、もう一度呼び掛けをくり返した。
LUNAくん、まだ生きてるかい?」
「は~い、生きてます~!」
ワーウルフと一緒に薬品を浴び、流れ弾ならぬ流れメスを身体のあちこちに受けながら、LUNAは生きていた。
「相変わらず、大した生命力だね。」
「だって、ワラムル先生のお側に居たいんですもの。」
だからLUNAは進んで大怪我をしては生き残る。ワラムルの側に居たい一心で・・・。
「まったく、きみは本当に面白い研究材料だね。」

-了-

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