DRINK DRINK

ホルスの城塞での戦いを終え、アトルシャン達は旅に出た。
目的地を定めぬ放浪の旅は、アトルシャンには勝手が違い過ぎるので、アトルシャンとタムリンはサオシュヤントの後にくっついてあちこち見て回った。
そうやってある村にたどり着いたところ、宿屋にサオシュヤント宛の手紙が届いていた。差出人はバージルの『名医ワラムル』だった。

「何て書いてあったんですか。」
アトルシャンが興味深げに聞きながら、サオシュヤントの手から『ワラムルの手紙』を引ったくった。
アトルシャンはタムリンと一緒に手紙を読むと、
「面白そうじゃないですか。行ってみましょうよ。」
と言った。タムリンも乗り気になっている。
「本当に行きたいのか?」
サオシュヤントだけは乗り気でないようだ。
しかし多数決でバージルの町へ向かうこととなった。サオシュヤントは、
「行きたい者だけが行けばいい。」
と言って、自分はこの村で待っていようとしたのだが、
「でも、この手紙はサオシュヤントさん宛になってますから。」
とタムリンに言われ、また、自分から旅の同行を誘っていたために逃げ切れず、結局3人でバージルの町へやって来た。

「おや、どうしたんだい?また何か面白い物でも持って来てくれたのかな。」
「まあ、そんなところだ。」
そう言って、サオシュヤントは『ワラムルの手紙』を差し出した。
「なるほど。確かに面白い物が来たようだ。」
「しかし、何でこんな手紙をよこした?」
「私は遠出できないからね。まぁ、あの村は昔から君のお気に入りだし、いつか寄るだろうと思ったのさ。」
「確かに、あの村の宿屋は雰囲気がなかなか性にあってるからな。」
「おやぁ、私はてっきり、あの宿屋の娘がお気に入りなのかと思っていたよ。」
ワラムルは薬棚を探りながら、横目でサオシュヤントをからかった。サオシュヤントはそんなワラムルに苦笑を返した。
そんな二人のやりとりをしばらく聞いていたタムリンはアトルシャンの肩をつついた。
「ねえ、アトルシャン。宿屋の娘さんってまだ17歳くらいだったわよね。」
「あ、ああ、そうかなぁ。」
はっきり言って、アトルシャンにはまだ、人間の年齢がわかっていない。彼の判断基準は、タムリンより背が高いか低いか、という程度である。
「それじゃ、昔から気に入ってるってことは……サオシュヤントさんってロリコン?」
その瞬間、サオシュヤントの側頭部に怒りのマークが張り付いた。
「ははは、相変わらず面白いお嬢さんだね。」
「タムリン、ワラムルの冗談を真に受けるとロクなことにならないぞ。」
サオシュヤントは顔こそ笑っていたが、内心かなり傷ついていた。
そこへ更に、気を滅入らすような声がかかった。
「ロリコンって、何歳くらいのことなんですか?」
アトルシャンは、タムリンが年齢の話をしていたので、ロリコンとは年代を表す言葉だと思ったらしい。
しばし沈黙の時が流れた。
「ははは、ほんとに君たちは面白いね。」
やはり、最初に復活したのはワラムルだった。
「いいかい、ロリコンって言うのはね……」
ワラムルはロリコンの意味について、懇切丁寧に説明し始めた。アトルシャンはマジマジと聞き入り、そして納得したように言った。
「サオシュヤントって、そういう人だったんですか。」
サオシュヤントの側頭部の怒りマークが2つに増えた。

「冗談はさておき。これが『面白い薬』だ。」
ワラムルは、薬瓶を3つ差し出した。それぞれ、赤・薄緑・緑の液体が入っていた。
「この赤いのが坊やので、薄緑のがお嬢さんのだ。区別がつきやすいように色を変えてあるけど、効果は同じはずさ。」
「珍しいな。お前が同じ薬を作るなんて。」
「同じ薬じゃないよ。ちゃんと元龍族用と元ホルス用に調合を変えてある。」
「では、この緑のは……」
「君のは、一応人間用に調合してあるよ。」
「一応、ね。」
サオシュヤントは複雑な表情でビンを取り上げた。
「さあ、早く飲んでご覧よ。」
ワラムルに促されて、アトルシャンは素直に薬を口に含んだ。
「これ、イチゴシロップみたいな味がしますね。」
「当然だろう。ベースがイチゴシロップなんだから。」
ワラムルは事もなげに言った。それを聞いて、タムリンもビンに口を付けた。
「それじゃ、私のは……メロンジュースですね。」
「正解。」
しかし、サオシュヤントはいつまで経っても薬を飲もうとはしなかった。
「あれ、どうしたんだい?」
「どんな効果があるのか説明してくれないか。」
「それは、飲んでのお楽しみさ。」
サオシュヤントは仕方なく、ビンの蓋を空け、口を近づけ、そして嫌そうな顔をした。
「おやぁ、風の大英雄ともあろうお方が好き嫌いかな。」
飲む前からベースが何であるのかを察して躊躇したサオシュヤントに、ワラムルはからかうように声をかけた。
「好き嫌いって、サオシュヤントさんのは何味なんですか?」
タムリンの素朴な疑問に、ワラムルはとっても楽しそうに答えた。
「青汁。」
「それって、ちょっと酷くないですか?」
「色がちょうどいいんだ。」
どうやら、ワラムルは色の都合だけでベースを決めて、飲む者の都合は考慮しなかったらしい。
結局、サオシュヤントはビンに口を付け、一気にあおった。
「飲んだようだね。それじゃ、お茶にしようか。」

高級そうなお茶に加えて、アトルシャンとタムリンにはケーキまで振る舞われた。そんなワラムルの気前の良さに、サオシュヤントは「何を企んでいるのだろう」と考えながらも、香りの良いお茶で気分直しをすることにした。
程なく、アトルシャンが叫んだ。
「あれ?なんだか、頭がくすぐったい。」
「きゃ~、アトルシャン可愛い!!」
アトルシャンには、茶色い子犬のような耳が生えていた。
「どうやら、効いてきたみたいだね。」
「え?それじゃ、これはさっきの薬のせいなんですか?」
楽しそうに言ったワラムルに、アトルシャンは確認する意味で聞いた。
「そうだよ。そろそろ、お嬢さんにも効いてくる頃だ。さ~て、何が出るかな。」
「やだ、頭がくすぐったい。」
「うわ~、タムリンもとっても可愛いよ。」
タムリンには、白い子猫のような耳が生えていた。
「でも、何だか変な気分よ。これ、いつまで効いてるんですか?」
「半時足らずで消えるよ。」
タムリンは泣きそうになっていたが、ワラムルの言葉に安心したのか、状況を楽しむことにして、子猫気分でアトルシャンにじゃれついたりし始めた。
「しかし、これは予想外の展開だったなぁ。」
ワラムルは驚いた風に言った。それを耳にしたサオシュヤントはうれしそうにワラムルをからかった。
「ほう、ついにお前も失敗したか。」
「まさか。私に失敗はないよ。」
「では、何が予想外なんだ?」
「坊やにはドラゴンの角でも生えるだろうと思ってたんだけどね。」
「ドラゴンの?」
「ああ。この薬は飲んだ者の性質を獣などの様相で示すものなんだ。だから龍族ならドラゴンの角が生えるかなって、楽しみにしてたんだけどね。」
「残念だったな。」
「まったくだよ。」
ワラムルは心底残念そうだった。しかし、気を取り直して言った。
「こうなったら、君で楽しませてもらおうかな。」
「そううまくいくかな。」
「君がどんな変化を見せるのか、大いに興味があるね。」
「生憎、さっきの薬なら飲んだ振りをしただけだ。」
サオシュヤントは効果の分からない薬を飲むのは危険だと思い、こっそり空のビンを掠めて、手の中で入れ替えていたのだ。
しかし、勝ち誇ったように言ったサオシュヤントに対し、ワラムルは笑いながら言ってのけた。
「ああ、あれは冗談さ。本物は、君が飲んだ1杯めのお茶に仕込んでおいた。」
サオシュヤントはあわててその場から駆け去ろうとした。
「おぉっと、逃げられると思ってるのかなぁ。」
3杯目のお茶に仕込まれた痺れ薬の効果で、サオシュヤントはあっさりワラムルに捕まった。
「安心したまえ。私だけの秘密にしておくよ。」
そう言ってワラムルはサオシュヤントの帽子を剥ぎ取った。幸い、アトルシャン達はじゃれ合いに夢中で気が付かなかったが、サオシュヤントの頭には龍のような角が生えていた。

-End-
宝物庫に坊丸さまより戴いた挿し絵イラストがあります(^^)

《あとがき》

おだてに乗って、エメドラ創作第2弾を書いてしまいました。

今回は、ワラムル大先生の創作としては定番の、薬ネタでした。
薬の効果は、完全に趣味に走っています。
アトルシャンに子犬の耳って似合いそう(^^;)
それに、タムリンって絶対、猫気質だよなぁ。だって、我が儘っぽいもの。戦闘中に「アトルシャンのバカ!」とか「アトルシャンが悪いの!」とか言って戦闘をサボるし。一体、何が気に入らなかったんだ?
サオシュヤントの場合は、「アルナムの牙」の影響です。声が同じなの(^^;) だから、サオシュヤントに生えた角は、龍族の頭に生えていたものとは違うものを想定しています。まぁ、別に、どんなのを想像してもストーリーには関係ないんですけどね。知ってる人は、リョウスイさんが獣化した時に生える角を想像して下さい。
でも今回の話って、完全に単なるお遊びですね。ただ、キャラを使って楽しんでいるだけ。ワラムル大先生の台詞書いててすっごく楽しかったです(^^)v 読み返しながら、暇な左手が表情作って遊んでました。
ところで、思いっきり言い訳しておきますが、LUNAはサオシュヤントがロリコンだなんて微塵も思っちゃいませんからね!! ハスラムの守備範囲はとっても広いと思ってますが……(^^;)

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