ある晴れた日に
written by nozomi様
その日の朝、アンジェリークは感性の館を訪れた。
そして顔を合わせたセイランは、頗る機嫌が良くて。
彼を噂程度でしか知らない人でも、こんなに機嫌の良い時には何か裏があるだろう、と疑うくらいの機嫌の良さ。
けれど、アンジェリークは何を疑うこともなく彼へにっこりと微笑んだ。
「おはようございます、セイラン様」
「おはよう、アンジェ。今日は君からの用件を聞く前に、ぜひ話しておきたいことがあるんだ」
そう言いながらセイランは、アンジェリークを椅子に座らせる。
不思議そうに座ったアンジェリークだったが、そんな彼女の耳元でセイランはこそり、と囁いた。
「昨日の夕方、偶然君を見かけたよ」
「え?」
「もちろん、一緒に歩いていた彼のこともね」
瞬間、アンジェリークの肩がびくりと震える。
そしてゆっくりとアンジェリークが振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた彼の顔。
「大丈夫、他言はしないよ。ただ一つだけお願いがあるんだけど」
「お願い……ですか?」
「そう、ごくごく簡単なお願いさ」
約束の地で、アリオスはアンジェリークが来るのを待っていた。
そして、向こうに人影が見えるとアリオスの顔は自然と柔らかくなる。
もちろん、彼女が来ているものだと信じて疑わないからで。
だが。
「……なんでお前が来るんだ?」
現れたのはいつもの彼女ではなく。
柔らかい笑みを湛えたセイランの姿。
そして一方アリオスは、突然の出来事にただ固まるばかり。
「まさかアンジェから聞いたのか?」
「当たらずとも遠からずってところかな」
セイランにしてみれば、ただ偶然見かけた二人の姿だった。
アリオスが、夕闇に紛れてアンジェリークを部屋まで送るその姿だったから。
なんとも無用心なカップルだと思いつつ、いいものを見たと思ったのも事実。
「とりあえず、もうすぐアンジェも来るからね」
「おい、どういう意味だよ!」
「言った通りの意味だけど」
分からないならもう一度説明しようか、と微笑うセイランにアリオスは黙り込んだ。
アリオスもアンジェリークが故意にばらしたわけではないということは百も承知だ。
そして、多分彼が知ってしまった本当のところも。
彼もまた、アンジェリークを送ったあの日、誰かがこちらを見ているような気がしたから。
だが、まさかセイランだとは思いもしなかった。
「で、どういうつもりで俺を訪ねてきたんだ?」
「決まってるさ。宣言をきちんとしておこうと思ってね」
「宣言?」
何のだよ、と軽く睨むアリオスにセイランは朝と同様の満面の笑顔を刻んだ。
そして彼の耳元でとびきり艶やかな声で囁いた。
「僕もね、アンジェが好きだから」
「な、なんだと!」
「悪いけど、僕の場合は年季が入ってるよ。彼女が女王候補の頃から好きだったからね」
彼女に想いを告げなかった理由はセイランだけの知るところ。
けれど、その想いが深くなることはあっても消えることは決してなかった。
「お言葉だけどな、俺はあいつとすでに恋人同士なんだよ。分かるか?」
「略奪愛って言葉を知ってるかい?」
「りゃ、略奪愛だと!」
飄々と言ってのけたセイランに、アリオスはただ口をぱくぱくさせるだけ。
そんな彼を楽しそうに見ながら、セイランはアンジェリークが駆けて来る姿を確認した。
「まあ、見ててごらんよ。奪う自信はあるからね」
そう言ったセイランの不適な笑みにアリオスは硬直する。
そしてセイランはやってきたアンジェリークに「言わないから安心するんだよ」とだけ言い残して、楽しげにその場を去った。
「良かった……ねえ、アリオス。あなたの事がばれたのがセイラン様でよかったね」
「良かっただと?っつーか、なんでばらした?適当に誤魔化すっていう術をお前は知らねぇのか!」
「だ、だって……」
口篭って俯いたアンジェリークだったが、すぐにアリオスを恨めしげに見上げてきた。
「セイラン様に嘘を吐くなんてできないわ。それに、「お願い」を聞いてくれたら決して他言はしないって言ってくださったもの」
「お願い?で、そのお願いっつーのはなんだよ」
見おろすように彼女を見て、アリオスはぴん、とアンジェリークの額を弾く。
そんな彼の行動に小さく抗議しながら、アンジェリークはぽつり、と零した。
「……隠れて暮らすアリオスにはきっと不自由が多いだろうから、自分が理解者になるためにアリオスの居場所を教えてほしいって……」
気合いの入ったセイランの演技にころりと騙されたアンジェリーク。
至極心配そうな顔をして、哀しげに眉を顰めて彼女からアリオスの居場所をセイランは聞きだしたのだ。
そしてアンジェリークは何を疑うこともなく話し、加えてセイランへの株まで上げたのだ。
「あの野郎……」
「ねえ、怒ったアリオス?」
「あぁ?怒ったもなにも終わったことだろうが。それに……」
ここで逆切れしてアンジェリークを責めてしまえばセイランが微笑うことは間違いないだろう。
そういうことだけは避けなければいけないとアリオスの本能が告げる。
「もういい。今度の日の曜日のデートでチャラにしてやる」
そう言ってアンジェリークを抱き寄せて、軽くキスをして。
頬をほんのり染めてはにかむように微笑んだアンジェリークにアリオスも軽く笑みを返した。
空は高く風が吹き抜け。
緑鮮やかなアルカディアの午後。
けれど。
彼は一人静かに、闘志を燃やさずにはいられない。
なにせ相手は彼なのだから―――――
□■LUNA様■□ この度は、アンケートに御協力&リクエストをありがとうございました! ほんの気持ちばかりのお礼創作ですが、お楽しみ頂ければ幸いです。 三角関係のラブコメになりました。 リクエスト通りかな、と思いつつ、これではコメディすぎ?と思ったり(笑) 結局はこんな形におさまってしまいました。 コレットのお相手をどちらにするかは悩みどころでしたが、アリコレでセイランが絡む方が楽しいかな、と思ってこの構図にしました。 少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです♪ Schwarz Wald---nozomiより |
☆★nozomi様★☆ リクエストにお応えいただけまして、ありがとうございました! 楽しい三角関係に、モニタの前で笑わせていただきました。 セイラン様、最高です♪ アンジェの好感度をアップさせながらの巧みな誘導尋問と言い、略奪愛宣言と言い、アンジェとアリオスを手のひらの上でコロコロ転がしてるみたいなところは、さすがはセイラン様vv こんな厄介な人を恋敵に持っているアリオスは大変ですね。 しかもアンジェは全然その空気に気付かないし…。 そういうところが彼女らしく愛らしくて、そしてアリオスの苦労や苦悩を倍増させることでしょう(笑) LUNAより |