予定外の出来事

アンジェの元を去り、アリオスはレヴィアスとして虚空城へと戻って来た。
正体を知ったアンジェ達はさぞや落ち込んでいるだろう。いや、怒っているかも知れない。仲間だと思って頼りにして来たアリオスが、実はこの宇宙を狙って女王とロザリアを閉じ込めた諸悪の根源だったなどとは、夢にも思っていなかったに違いない。
一体、何度忠告したことか。簡単に人を信じ過ぎるアンジェに、アリオスは何度も「甘い」と言った。それでも信じることを止めなかった彼女だが、今度こそ身に染みたことだろう。
「レヴィアス様、そろそろあいつら消しちゃっていいですよね♪」
戻ってくるなり、マルセルの身体に順応したジョヴァンニが声を掛けた。
「やっぱり、最初はこの器の元になった守護聖からにしようかな。」
「黙れ。」
レヴィアスは、短くそれだけを言うとカインを従えて奥へと進む。だが、ジョヴァンニは追い掛けてまだねだるような口調で続けた。
「ねぇ、僕にやらせてくれますよね?」
レヴィアスは足を止めると、振り返らずに言った。
「我は"黙れ"と言った。」
これには、さすがのジョヴァンニも口を閉じた。
しかし、レヴィアスが姿を消してからまた軽口を叩いていたことは容易に想像がついたのだった。

奥の部屋に隠って、レヴィアスは額に指を当てるようにしながら深々と溜め息をついた。
「何故、我はこんなにも苛ついている?」
準備は整った。部下達は揃い、新しい身体にも慣れ、技も武器も魔導も完成した。それなのに、レヴィアスは部下達に出撃の命を下せずにいた。
女王の力はもうじき尽きる。そうなれば、アンジェ達の士気はますます低迷するだろう。それからでも遅くはない。こちらから撃って出なくても、奴らの方から飛び込んで来る。舞台を整えて遊んでやるのもまた一興。
そんな言い訳をしながらも、それに納得出来ていない自分がいることをレヴィアスは自覚していた。
「アリオス♪」
突然、レヴィアスの耳の奥にアンジェの声が聞こえたような気がして、脳裏に彼女の姿が浮かぶ。
「待ってよ、アリオス~! きゃっ!!」
「バ~カ、何にもねぇトコで転けんなよ。特技か、それ。」
「酷いわ、アリオスったら…。」
起き上がるアンジェに手を貸してやると、拗ねたような顔でアリオスを見上げながら彼女は立ち上がった。
「アリオスが悪いのよ。」
「はぁ? 俺が何したってんだよ?」
「だって…。」
真っ赤になりながら口の中でモゴモゴと何やら呟くアンジェをしばらく面白そうに眺めて、アリオスは澄ました顔でこう言った。
「ああ、わかったって…。俺が悪かったよ。こんなにいい男じゃ見愡れるなって方が無理あるよな。」
「べ、別に見愡れてなんか…。」
「クッ、照れるな、照れるな。ほら、ゆっくり歩いてやるから。だから、俺ばっかり見てないで、ちゃんと足元も見ろよ。」
「もう、アリオスったら!」
何度注意しても、彼女のドジは止まなかった。何もないところで転ぶ、崖に向かって突然走り出す、厄介事に首を突っ込む。しかし、思い返してそれに呆れると同時にいちいち付き合ってた自分が居たことに気付き、レヴィアスは苦笑した。
「アリオス♪」
些細なことでも、彼女は嬉しそうに名前を読んで駆け寄って来た。
「アリオス♪」
くり返し耳の奥に甦るその声に、レヴィアスは苦悩した。
「……呼ぶな。」
「アリオス♪」
疑うことを知らないアンジェの声に、レヴィアスの胸が痛む。
「我をその名で、そのような声で呼ぶな。」
「アリオス♪」
「我を…、呼ばないでくれ、アンジェリーク。」

部下達は次々と倒され、ついにアンジェ達は虚空城の大広間の前まで来た。扉の向こうまで彼女達が迫って来ているのが部屋の奥からでも判る。
「早く我の元へ来い。」
レヴィアスは皮肉な笑みを浮かべて呟いた。
「ここへ来て、我にとどめを刺せ。」
部下達はもう居ない。エリスは復活を望まない。今さらこの宇宙を手に入れたところで何の意味があるのだろう。
「我も手加減はせぬ。お前をこの手で葬り、すべてに終止符を打つ。」
そうすれば、何もかもが吹っ切れる気がする。彼女を自分の手で消せば、きっとこの苦しみも終わる。
「さあ、来い、アンジェリーク。我の筋書きから外れたこの茶番劇に幕をおろす為に…。」
そして扉は開かれた。アンジェとアリオスの未来に向けて…。

-了-

《あとがき》
天レクに於いてレヴィアス様に起こる様々な予定外の出来事。
例えば、エリスそっくりの少女が新宇宙の女王として現われたり、部下が皆やられてしまったり、エリスが復活を拒否したり…。
でも、最たるものは「アンジェを愛してしまった」だと思います。
そんな訳で、裏切った後のレヴィアス様としての苦悩など描いてみました。アリオスでいた時から充分過ぎる程悩んでたと思いますが、レヴィアス様として悩んだところを書いてみたかったのです(^^;)

indexへ戻る