「俺はもう、自分を許してもいいのか…?」
そう言って、やっと自分自身を縛る鎖から解き放たれ未来に向かって歩き始めたアリオスは、すぐにはアンジェの宇宙へは行かずにアルカディアの住人として気ままな生活を送っていた。
アンジェは暇を見つけては約束の地を訪れてアリオスと内緒のデートを続け、この時だけは女王であることを忘れて楽しい時間を過ごしていた。
そして何度となく逢瀬を重ねる内に、ついに一線を越えてしまったのだった。

アンジェが目を覚ました時、アリオスによって服は整えられており、その身は約束の地の林の中の大きな木の下でアリオスにもたれ掛かっていた。あたりを見回すともうすっかり日は落ちている。
「どうしよう、こんな時間まで。レイチェルに何て言い訳したら…。」
「別に、ちょっと遅くなったからって知らん顔してりゃどうってことないだろう。」
「だって、「何してたの?」って聞かれたら…。」
「だから知らん顔してりゃ、って無理か。お前すぐ顔に出るからな。」
真っ赤になって頷くアンジェに、アリオスは溜め息をついた。これは、聞かれた途端に茹で上がってバレること決定だ。
「ヤバいな。」
「やっぱり、アリオスのことは内緒に…。」
「ぃや、それよりもお前が女王だってこと、すっかり忘れてたぜ。」
あまりに女王らしくないアンジェにアリオスは心のままに求め、アンジェもそれを受け入れてしまったが、もしかしたら大変なことを仕出かしたかも知れないという考えがアリオスの脳裏をよぎった。
「あの、な…。お前、どこか異常ないか?」
「ん? 身体が重いし、あちこち痛い。」
「そうじゃなくって! サクリアって言ったか、お前らの力。そいつに異常はないか?」
アンジェは焦るアリオスの様子にきょとんとしながら、静かに自分の中の力に意識を集中した。
「別に、何ともないわよ。」
不思議そうにしながらも答えたアンジェに、アリオスはあからさまに安堵の表情を浮かべた。
「どうしたの?」
「ほら、昔っから少女に宿ってる力って純潔と同時に失われることが多いって聞いてたから…。いくら俺でも、その気もなかったのに自分の所為で宇宙が滅んじまったら寝覚めが悪いからな。」
「ちょ、ちょっと、宇宙が滅ぶなんて縁起の悪いこと言わないでよ!!」
「でもなぁ、突然前触れもなく女王の力が消失しちまったら、そういうこともあり得るだろ。そんなことになってたらお前が泣くどころじゃ済まねぇからな。」
言われてみれば、自覚はなかったもののそういうこともあったかも知れないと思うと、アンジェは自分の軽率さを恥じた。
「クッ、宇宙が滅びなくてホッとしたぜ。」
「うん。でも、レイチェルには怒られるかも…。」
「もちろん、怒るヨ。」
その声にギクリとしてアリオスが振り返ると、すぐ近くの木陰から少女が出て来て2人を睨み付けていた。
「レイチェル…?」
顔を上げたアンジェが驚きと不安を胸に名前を呼ぶと、レイチェルは大股に数歩近付いて来て腕組みした。
「出かけたきり帰って来ないから迎えに来たの。どうやら、とんでもないことしてくれたみたいね。向こうの宇宙だったら、極刑かも知れないヨ。」
それを聞くなり、アンジェはだるい身体にむち打って立ち上がるとアリオスを背に庇った。
「ダメっ!! 極刑なんて、そんなことさせない。誰に何と言われようとも、私はアリオスを守るわ!!」
惚れた女にそこまで言われるのは嬉しい限りだったが、アリオスとしては「立場が逆だろ」と思わずにはいられなかった。
すると、しばらくそんなアンジェ達を見つめていたレイチェルが突然笑い出した。
「やだ、もう、アンジェったら…。向こうの宇宙なら、って言ったでしょう?」
「えっ、それじゃ…。」
「こっちの宇宙では、アナタが法律だヨ。恋愛も結婚も、アナタの望むようにしていいの。幸い、サクリアに異常は見られなかったんだしネ。」
アリオスとの間に何があったかまでレイチェルにバレていることにアンジェの心臓は飛び出しそうになった。
「本当にいいの、レイチェル?」
「もちろんだヨ。だって、アナタが幸せじゃなくちゃ宇宙だって幸せにはなれないでしょ。」
「ありがとう!」
アンジェはレイチェルの首に抱き着いた。すると、レイチェルは子供でもあやすように背中を軽く叩いたり頭を撫でたりする。
「でも、こんなふうに逢い引きして皆に心配掛けたり、まかり間違えば大惨事になるようなことした責任は取ってもらうヨ。」
「……うん。ごめん。」
アンジェはレイチェルから手を離すと、しゅんとした。
「あなたの手で、アリオスを裁いてもらうわ。宇宙を滅ぼす恐れのあるような行為をした彼に、女王として罰を与えて頂戴。」
「でも、これはアリオスだけが悪い訳じゃ…。」
アンジェはレイチェルに食い下がった。しかし、レイチェルは聞き入れない。
「そう、アナタも悪いの。だから、彼を裁くことがあなたに対する罰よ。」
アンジェは潤んだ目でアリオスを振り返った。困ったように、悲しそうな顔をするアンジェに、アリオスはその場に座り込んだままで答える。
「いいぜ、好きに裁けよ。お前が与える罰なら、俺はどんなものでも素直に受けるから。だから、気に病むな。」
「う、ん…。」
アンジェはアリオスとレイチェルを交互に見遣りながら、必死に考えた。アリオスに酷いことはしたくない。しかし、何か罰を与えないとレイチェルは納得しない。かつて女王試験の折に公園で守護聖とデートした時でもこんなには使わなかったであろうと思われるくらい、アンジェは必死になって頭を使った。
しばらく、双方から次の言葉を期待するような視線を向けられていたアンジェは、ついに意を決して口を開いた。
「では、女王としてアリオスに罰を与えます。」
「ああ。」
アリオスは改めてアンジェを見つめた。
「罰として、アンジェリーク・コレットの傍で一生タダ働きすることを命じます。」
「あはは、一生タダ働きか。なかなか洒落た罰だネ。でも、ちゃんとこき使ってあげなきゃダメだヨ。」
レイチェルは笑った。
しかし、アリオスは驚いたような顔をした。それは、彼女の顔を見て、アンジェが言った"タダ働き"の裏に隠された意味を感じ取ったからだった。そこで、アンジェに小声で確認する。
「おい、それってもしかして…。」
「うん。一緒に私の宇宙に来て。いつでも傍に居て欲しい、なんて贅沢は言わないわ。でも、もう何処へも行かないで。」
傍で一生タダ働き。言い換えれば永久就職。それはプロポーズと解釈出来なくもなかった。「だから、立場が逆だろ」とアリオスは心の中で呟いたが、表面上は素知らぬ顔で別のことを口にした。
「そんな贅沢なら、いくら言っても構わないぜ。お望みとあらば、本当にいつでもどこでも傍に居てやるよ。」
「いいの?」
「ああ。バスルームでも寝室でも、な。」
途端にアンジェは茹で上がった。
「い、いいい、いいっ! そこまで傍に付いててくれなくていいわっ!!」
突然アンジェが挙げた大声にレイチェルはびっくりしたが、慌てて「何でもない」と手を振る様子に追求するのをやめた。そして、2人を促して新宇宙へ戻って行ったのだった。

その後アンジェとアリオスは、実際は罰でも何でもないことで上手く丸め込まれたレイチェルが真相に気付くまでに新宇宙で既成事実を作り上げるべく、幸せになる為の努力を惜しまなかった。
「アリオス、今度こそ幸せになってね。」
「ああ。お前が幸せにしてりゃ、きっとなれるさ。」
アリオスはアンジェの頭にポムっと手を乗せて微笑んで見せた。すると、アンジェは拳を握りしめて宣言する。
「うん!あなたの傍で私は幸せになるわ。そして絶対にあなたを幸せにしてみせる!!」
宇宙を統べる女王様に力強く宣言されるなど、まったくもって心強いことではあったが、アリオスはアンジェのこういう態度に呆れもした。
「あのなぁ、そういうのは男の台詞だろ。お前が言うなよ。俺の立場がねぇじゃねえか。」
「だって、言いたかったんだもん。」
呆れ返られて、アンジェは拗ねたように上目遣いにアリオスの顔色を伺った。それに対し、アリオスはクッと笑うとアンジェの頭に置いた手で髪をクシャクシャと弄んだのだった。
「バ~カ、わざわざ言葉にしなくても解ってんだよ。だが、俺を本当に幸せにするには半端なことじゃ済まないぜ。覚悟しろ。」

-了-

《あとがき》
宇宙一罪深い男、アリオスのお話でした(笑)
このお題を見た瞬間、アリオスの為にあるようなお題だと思いましたよ。何しろ、天レクで数々の罪を犯した上、更に転生して新宇宙の女王陛下を惑わせるんですから。しかし、彼の最大の罪は、LUNAをアンジェの世界に引きずり戻した挙げ句にコーエーさんに貢がせてることでしょう(^_^;)
アリオスの為に、いったい幾らコーエーさんに貢いだのかは怖くて計算出来ません。DVDにCDにゲームソフトにパソコンソフトに本。殆どが、アリオスの為だけに買ったものです。

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