遊園地

アンジェにせがまれてアリオスが仕方なく遊園地デートを了承したのは、まだ春とは名ばかりの寒い日のことだった。
さすがに学生達が休みに入っていない所為か、それともこの寒い中を屋外で遊ぶ者は少ない所為か、雪の残る園内はかなり空いていて大して待ち時間を費やすことなくアンジェは望みのままにいろんなアトラクションを楽しんだ。ジェットコースターやお化け屋敷では嬌声を発しながらアリオスにしがみついて堪り兼ねた彼に掌で口を塞がれたが、それもまた一興だ。
スカイロケット、ミラーハウス、ティーカップなどではデートらしい会話もあった。
そして今、アンジェはメリーゴーランドからは大声でアリオスの名を呼びながら手をブンブンと振り回していた。本当はアンジェはこれも一緒に乗ろうと誘ったのだが、アリオスがどうしても嫌だと言って、結局よくある風景として彼女だけが乗って彼氏は外から手を振るという光景の方で我慢することにしたのだ。
しかし、アリオスは後悔していた。あまりにもアンジェが元気いっぱいに大声で名前を呼ばわり、しかもしっかりと手を振り返さないと気づいてないのかとばかりに更にボリュームをアップさせて手の振りを大きくするので恥ずかしくて堪らない。こんなことなら2人乗りの馬車風のものに一緒に乗ってやった方がマシだった、と思い返してももう手遅れである。
「アリオス~!!」
「お、おうっ!」
引きつった笑顔で、アリオスは周りの注目を浴びながらアンジェに手を振り返す。その笑顔の裏では、あと何周でこの苦行から解放されるのだろうか、と考えながら…。

アリオスに何度も冷や汗を流させたアンジェは、最後に大観覧車へと向かった。
「ここの観覧車、上の方から海が見えるんですって。今くらいの時分だとちょうど水平線に夕日が沈むのが見えると思うの。」
「…狙ってたのか?」
「うん。今日は空いてるから、どうせなら、と思って。まさか、こんなにちょうど良く乗れるとは思わなかったわ。」
ゴンドラの窓に張り付くアンジェに、アリオスは少しだけ感心していた。単なるお子様じみた好奇心だったかも知れないが、選べる中からこの風景を選んだのは評価に値する。
「なかなか見られない良い景色だな。」
「でしょう♪」
アリオスの言葉にアンジェは嬉しそうに満足げに笑った。
その時である。ガクンとゴンドラが揺れ、景色が変化しなくなった。
「あら?」
「止まった……か?」
しばらく見ていたが景色は全く変わらない。
「どうしよう?」
アンジェはだんだん不安になって、おろおろし始めた。しかし、アリオスは落ち着いたものだ。
「どうしようもないねぇだろ。」
「そ、そんなぁ…。」
「それとも、俺に強引にドア開けてお前を抱えてポールを伝って降りろとでも言うつもりか?」
そう言われると、アンジェは何も言えなかった。アリオスなら出来そうだが、やってくれとは言えない。
「まぁ、その内動き出すだろう。それまで昼寝でもして待つさ。」
「お昼寝って時間じゃないと思うんだけど…。」
だが、呆れるアンジェの前で、アリオスはもう寝息を立てていた。
「アリオス?本当にお昼寝しちゃったの?」
アンジェはアリオスの趣味が昼寝だということは承知していたが、そのあまりにも見事な寝入りっぷりには驚きが隠せなかった。しかし、それがアンジェに不安を忘れさせ、やがてアリオスにつられるようにアンジェも眠りに落ちたのだった。

アンジェ達の乗ったゴンドラが下に着いた時、アリオスは目を覚ましたがアンジェは眠ったままだった。
「お疲れさまでした!ご迷惑をおかけ致しまして…。」
ドアを開けながら声をかけるスタッフに、アリオスは唇の前に人差し指を立てて見せた。スタッフは一瞬キョトンとしたが、中を覗いて慌てて声を落とす。
そしてアンジェを自分のコートで包んでお姫様抱っこし、アリオスはゴンドラを出たのだった。

-了-

《あとがき》
久々のアリコレ創作です。
イベントのDVDを見ていて、急に書きたくなっての一気書きです。
ブランクの間に拙い文章がますます稚拙になったかも知れませんが、書きたいものを書きたいように書き切りました。
それでもお気に召して下さる方がいらっしゃれば幸いに存じます(^_^;)

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