はじめまして

「いつになるかはわかんねぇけど、お前の宇宙に行くぜ。俺が好きなら、その日を待っててくれ。」
約束の地でそう言って姿を消したアリオスが、本当に自分の宇宙へやってくるとの知らせを受けて、アンジェは急いで迎えに行った。
「アリオス…。」
「マジかよ!?何でお前がこんなトコに居るんだ?」
主星最大の宇宙港へ降り立ったアリオスは、いくつもある出港ゲートの中から自分が出て来たゲートを選んですぐ脇で待ち構えていたアンジェを見つけて驚いた。
「何で、って…。気が向いたら迎えに来い、って手紙もらったから…。」
何か悪いことしたのだろうか、と不安になりながらアンジェは答えた。
「そりゃ、確かに手紙は出したが…。」
まさか宛先が「聖地」で宛名が「女王陛下アンジェリーク・コレット様」という手紙がちゃんとアンジェの元に届くとも思えなかったし、そもそもいつ何処に着くとも書かなかったのに、どうしてあれで迎えに来られるのか。アリオスは、自分で「迎えに来い」と書いておきながら、全く期待していなかったのだった。もし無事に手紙がアンジェの手元に届いたとしても、迎えに行こうにも行けなくてアンジェが慌てた挙げ句に目の前に現われたアリオスにささやかな罪悪感と多大な安堵を感じて飛びついて来ると予想していたのだった。
「えっと、実はちょっとだけ王立研究院を私用で使っちゃったの。」
難しい顔をしているアリオスに、アンジェはどきまぎしながら白状した。
アルカディアからこの宇宙へと移住する人々に交ざってやって来たアリオスは、移住ゲートを通る際にその存在を研究院に記録されていた。アンジェがアリオスからの手紙を受け取った前後の記録を調べて、アリオスがいつこちらの宇宙へ来たかが解れば、後はその後に主星へと向うシャトルの搭乗者データに網を張ればいいだけのことである。主星の出入りはチェックが厳しく、偽名など使ってもすぐバレる。勿論、後ろめたいことなど何もないアリオスは、アルカディアの住人アリオスを名乗って堂々とやって来たのだから、到着ポートから時間からバレバレである。
「アリオスのことだから、きっと迷わず最短コースを来るだろうなって思って、ここで待ってたの。」
初めての場所であろうとアリオスはまるで馴染みの場所のように歩き回れることは、あのアルカディアでの逢瀬の中で解っていた。だから、アンジェはアリオスが降りたところからどこが最短の出港ゲートにあたるのかを教えてもらったのだ。
「クッ。さすがは女王陛下。見直したぜ。」
まさかアンジェにこれだけの判断が出来るとは思っていなかったアリオスだった。アルカディアが救われたあの時、確かに彼女を「女王」だと認めたものの、それでも鈍感すぎる彼女にこんなことが出来るとは到底思えなかったのだ。
「……本当はレイチェルのアドバイスのおかげなの。」
「レイチェル?」
「うん。私の大親友で……自他共に認める、超優秀な補佐官なの。」
「つまり、研究院を私用で使ったのも最短コースで待ち伏せしたのも、全部そいつの入れ知恵ってことか。」
アンジェは小さくなりながら頷いた。そして、上目遣いにアリオスの表情を伺う。
「呆れた?」
そんなアンジェの態度にアリオスは破顔した。
「バ~カ。その逆だ。お前が相変わらずで、安心したぜ。」
「ひっど~い!そんなに笑わなくてもいいじゃない!!」
アンジェはアリオスの胸をぽこぽこと拳で叩いた。
それからアリオスは機嫌を直したアンジェと共に、聖地の門をくぐったのだった。

聖地へ足を踏み入れたアリオスは、まず補佐官レイチェルや聖獣アルフォンシアを紹介された。
「聖獣って、そこに寝てるピンクの毛玉のことか?」
「見えるの!?」
あくまでアルフォンシアにアリオスを紹介しただけのつもりだったアンジェは驚いた。勿論、アルフォンシアの見えないレイチェルはもっと驚いていた。
「ってことは、そいつがアルフォンシアなんだな?」
「アナタ、本当に見えてるの!? だったら、彼が今何をしてるか言ってみて。」
言わせたところでレイチェルには真偽の判断は出来ないが、アンジェには解るはずだ。嘘が下手な彼女には、アリオスに話をあわせるなんて真似は出来まい。
「何って…。右手で頬の辺り掻いてるぜ。あ、ゆっくりとしっぽ振ってる。右、左、右、上、左、右、下、上、下……って、いつまで実況中継してりゃいいんだ?」
アリオスがいらだって中継をやめたところで、レイチェルはアンジェの方を見た。
「今の、全部合ってたワケ?」
アンジェは目を丸くしたまま、レイチェルの問いに黙ってしっかりと頷いた。
そんな女性達を後目に、アルフォンシアはポテポテとアリオスの目の前までやって来た。
「サワッテ ミル?」
これがアルフォンシアの挑戦なのか単なる興味なのか判別がつかないまま、アリオスは手を伸ばした。
「ドウ?」
「へぇ…随分いい毛並みしてるな。」
この会話に、アンジェは言葉を失った。宇宙で唯一人、女王陛下にのみ姿を見せ声を届け触れあうことを許す聖獣が、アリオスに姿を見られたばかりか話して触れあったのだ。
「コレハ アンジェリークガオコシタ キセキダヨ。」
「私が起こした奇跡!?」
「ソレダケ アンジェリークニトッテ アリオスハ トクベツナンダ。」
アンジェが復唱するアルフォンシアの言葉を聞いて、レイチェルはアンジェとアリオスを交互に見遣った。
「ダカラボクハ フタリヲミトメルヨ。」
レイチェルはハッとなった。突然現われた男にアンジェを奪われた気がして、アリオスに敵意を向けていた自分に気付いたのだ。
「アンジェリークガシアワセダト ボクモ ウレシイ。」
「そうだよね。アンジェが幸せにならなくちゃ、宇宙を幸せになんて出来ないもの。それに、ワタシもアンジェが幸せな方が嬉しいよ。」
「レイチェル…。」
アンジェは、アルフォンシアとレイチェルの言葉に涙ぐんだ。
「だから……アリオス。この子を幸せにしてあげて。さもないと、ここから叩き出してやるからね!」
「任せておけ。こいつは俺が宇宙一幸せにしてやるから。」
不敵な笑みを浮かべて、アリオスは涙ぐむアンジェを抱き寄せた。
「きゃっ!」
「お前も俺を宇宙一幸せにしてくれるって期待させてもらうからな。覚悟しろよ。」
「…うん。」
目の前で展開されるラブシーンにしばらく呆れ返った後、レイチェルは気を取り直した。
「それじゃ……そういうワケで改めて宜しくね、アリオス。」
「ああ。」
こうして聖地に迎え入れられたアリオスは、それから何度もレイチェル達に呆れられたり怒られたりしながら、アンジェと幸せに暮らした。
果たして、2人は宇宙一幸せなカップルになれたのか否か。それは、あなたの心の中の物語となるであろう。

-了-

《あとがき》
初のトロワアリオス創作です。
トロワの天レクアリオスは前に書いたけど、記憶喪失のままのアリオスはこれが初めてです。
アンジェで「お題」に挑戦するのも、これが初めてです。
聖地へやって来てアルフォンシアとレイチェルに御対面♪
ちょっと、アルフォンシアをお茶目さんにしてみました。だって、アンジェの分身だしね。あの尻尾の振り方は、アリオスをからかうようにやってます(^^;)
そして、ラストはLUNAの得意技(?)で締めてみました(汗;)
それでは、続きはあなたの心の中で…。

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