ルヴァ: |
あ~、昔々あるところにアリオスと言う働き者の青年が居まして、来る日も来る日も意地悪な継父や継兄達にこき使われながらもめげずに暮らしていました。 |
セイラン: |
めげる暇があったら、きりきり働いてもらうよ。 |
ルヴァ: |
あ~、なるほど。それもそうですね~。 |
アリオス: |
納得してんじゃねぇ!! |
ルヴァ: |
とにかくですね~、アリオスは毎日苛められてたわけでして…。あ~、ジュリアス、話を進めてもらえませんかね~。 |
ジュリアス: |
うむ。アリオス、食事の支度は出来ておるか? |
アリオス: |
出来てるぜ。 |
ルヴァ: |
あ~、これは美味しそうな料理がたくさん並んでいますね~。 |
ジュリアス: |
むむっ、何だ、これは!? この私にこのようなものを食せと…。 |
セイラン: |
アリオス、おかわり早くして。 |
オリヴィエ: |
ちょっと、セイラン…。 |
セイラン: |
だって、こんな美味しいスープは滅多に無いよ。この僕をして文句の付け所が見つからないね。ああ、強いて言うなら作った人間に問題があるかな。 |
ジュリアス: |
セイラン、そなた私に何か怨みでも…。 |
ルヴァ: |
おや? ジュリアス、どうしたんですか~? ああ、もしかしてスープに文句を付けるつもりだったんですかね~。 |
ジュリアス: |
いや、その…。 |
ルヴァ: |
どうやら、ジュリアスは失敗してしまったようですね~。オリヴィエ、頑張ってくださいね。 |
オリヴィエ: |
はい、は~い♪ アリオス、この前言い付けた染み抜きはどうなってるかなぁ? |
アリオス: |
出来てるぜ。ほら、これで良いんだろ。 |
オリヴィエ: |
あ~ら、まだ染みが…嘘でしょう、全然残ってないじゃん!? |
アリオス: |
だから、ちゃんと出来てるって言ってんじゃねぇか。 |
オリヴィエ: |
だって、あの染みって年代ものの血痕だよ。こんなにきれいに消えるわけ無いじゃん。さては、アンタ、別の新品とすげ替えたね。 |
アリオス: |
ふ~ん。あんたの服って、そんな簡単にすげ替えられるような安物だったのか。知らなかったぜ。 |
オリヴィエ: |
バ、バカをお言いでないよ。アタシがそんな安物着るわけ無いでしょう!! |
アリオス: |
だったら、ちゃんと俺が染み抜きしたって信じろよな。 |
オリヴィエ: |
ぐっ…。 |
ルヴァ: |
どうやら、オリヴィエも失敗してしまったようですねぇ。あとは、セイランですか。 |
セイラン: |
アリオス、掃除は済んだかい? |
アリオス: |
今、終わったぜ。 |
セイラン: |
そう? それじゃ…。 |
ルヴァ: |
おや? セイラン、何をしているのですか? ああ、そんなに強くこすったら指先を傷めますよ。 |
アリオス: |
ふん。指先で埃チェックなんぞしても無駄だぜ。 |
セイラン: |
……。 |
ルヴァ: |
セイラン!! 水差しなんか持ち上げて、どうするつもりですか。ああ、まさか、それをアリオスに浴びせようなんて…。 |
セイラン: |
まさか、ね。そんなことはしないよ。これは、こう使うんだ。 |
アリオス: |
あ~っ!! |
ルヴァ: |
床のあちこちに水撒きですか? |
セイラン: |
こんなものかな。あ~あ、掃除したって言うわりにはあちこち水溜まりがあるじゃないか。拭き掃除はきちんとやってもらいたいね。 |
アリオス: |
てめぇ、そこまでやるか!? |
セイラン: |
文句を言う暇があったら、さっさと拭き直したら? |
アリオス: |
…わかったよ。やれば良いんだろ、やれば。 |
ルヴァ: |
あ~、さすがはセイランですね~。 |
アリオス: |
感心してんじゃねぇ!! |
ルヴァ: |
まぁ、何はさて置き、新宇宙の女王様からの招待状が届いたようですね~。 |
ジュリアス: |
では、出かけるからな。 |
オリヴィエ: |
留守番、よろしく♪ |
セイラン: |
居眠りしてる暇があったら、家中を磨き上げておいてよね。 |
アリオス: |
うるせぇな。さっさと行けよ。 |
ルヴァ: |
こうして、ジュリアス達は出かけていきましたが…。いいんですか、アリオス? のんびり居眠りなんかしてて。 |
アリオス: |
何だよ。あんたまで俺に「家中磨いとけ」って言うつもりか? |
ルヴァ: |
あのですね~、彼らが出かけたのはアンジェリークの恋人選びパーティーなんですけど…。 |
アリオス: |
それを先に言えよ!! ったく、冗談じゃねぇ。 |
クラヴィス: |
待て。 |
アリオス: |
何だよ、邪魔すんな。 |
クラヴィス: |
その格好で行くつもりか? |
ルヴァ: |
ところどころ布の擦り切れたよれよれのシャツ、継ぎはぎだらけのくたびれたGパン、ぺなぺなのスリッパ、ママさんエプロン。おまけに頭には三角巾ですか。その服装はパーティー会場にはそぐわないでしょうねぇ。 |
クラヴィス: |
似合ってはいるがな。 |
ルヴァ: |
ええ、本当によくお似合いですねぇ。あなたは、そういうものも着こなせてしまうんですね~。 |
アリオス: |
余計なお世話だ!! |
ルヴァ: |
とにかく、パーティーに出られる格好にならなくてはいけませんよ~。 |
アリオス: |
で、ねずみ2匹とカボチャを持って来いってのか? |
クラヴィス: |
いや。これを…。 |
アリオス: |
メンズファッションカタログ? |
クラヴィス: |
では、な。 |
アリオス: |
では、って何だよ、おい。あんた、親切な魔法使いじゃねぇのか? |
ルヴァ: |
あ~、アリオス。彼の役は不親切な魔法使いなんですよ。ですから、御自分の魔導の力で対処して下さいね~。 |
アリオス: |
仕方ねぇな。で、この印の付いてる服装になれってことか? |
ルヴァ: |
どうやら、そういうことみたいですねぇ。 |
アリオス: |
ま、やってみるか。 |
ルヴァ: |
それで、出来ちゃうんですから凄いですねぇ。 |
アリオス: |
上手くいったみてぇだな。じゃ、行ってくるぜ。 |
ルヴァ: |
気を付けて行って来て下さいね~。 |
アリオス: |
気を付けろって、何に気を付けりゃいいんだ? まぁ、いいか。無事に着いたみてぇだし。 |
レイチェル: |
ほら、アンジェったら、こんなところに隠れてちゃダメだヨ。 |
アンジェ: |
え~、でも~。 |
アリオス: |
おお、居た居た。あんなところに隠れてやがったぜ。 |
ルヴァ: |
どうやら、彼女は恥ずかしがって皆の前から逃げていたようですねぇ。 |
アリオス: |
踊ってくれねぇか? |
アンジェ: |
うん♪ |
ルヴァ: |
あ~、アンジェリーク。あなた、恥ずかしがってたのではなかったのですか? |
アンジェ: |
いいえ、他の人と踊りたくなかっただけです。 |
ルヴァ: |
はぁ、そういうことですか。あ~、2人とも調子に乗り過ぎないようにしてくださいね~。 |
アンジェ: |
は~い。 |
アリオス: |
ああ。わかったから、ちょっと引っ込んでろ。 |
ルヴァ: |
そんなに邪険にしなくても…。ああ、いけませんよ、アリオス。もう時間です。 |
アリオス: |
時間って、これは俺の魔導で変身してるから時間制限なんかないだろ? |
ルヴァ: |
それはそうなんですけど、話の都合上、もう時間なんですよ。ですからガラスの靴を…って、履いてる訳ないですよねぇ。それでは、何か他に珍しいもので対になってるもの、持ってませんか~? |
アリオス: |
んなこと言われてもなぁ。 |
アンジェ: |
どうしたの? |
アリオス: |
いや、その…。何か証拠物件を置いてかなきゃいけねぇようなんだが…(ガサガサ、ゴソゴソ) |
アンジェ: |
ねぇ、そのポケットに入ってるのは何? |
アリオス: |
これか? これは夜食の…。でも、何でこんなとこに入ってんだ? |
アンジェ: |
(ぱくぱく、もぐもぐ) |
アリオス: |
あ~っ、こらっ、ひとの夜食を勝手に食うな!! あ~あ、せっかく作りたてのところを1個くすねといたのに…。 |
アンジェ: |
あなたが作ったの? |
アリオス: |
そうだよ、文句あるか? |
アンジェ: |
それじゃ、この味を証拠物件にするわね。 |
アリオス: |
……は? |
アンジェ: |
この味よ。忘れないでね。 |
ルヴァ: |
あ~っ、アンジェリーク!! あなたという人は何て大胆なことを!? |
アンジェ: |
えっ、キスしちゃマズかったですか? |
ルヴァ: |
そういうのは、エンディングまでとっておくべきなんですよ~。見て御覧なさい。アリオスは動揺のあまり変身が解けかかってしまってるじゃないですか。 |
アリオス: |
わ~、えぇっと、えぇっと、空間転移!! |
ルヴァ: |
どうやら、元の格好に戻る前に帰って来られたみたいですね~。 |
アリオス: |
マジでヤバかったぜ、今のは。こんな格好、あいつに見せらんねぇもんなぁ。 |
ルヴァ: |
そんなことないと思いますけど…。あ、とにかく、もうすぐジュリアス達も帰って来ますから、お夜食温め直した方がいいんじゃありませんか~? |
アリオス: |
へいへい。 |
ジュリアス: |
アリオス! アリオスは起きているか!! |
アリオス: |
何だよ、大声だして。一応、今は夜中のはずだぜ。 |
ジュリアス: |
口答えする暇があったら、私に美味しい蒸しパンの作り方を教えるのだ。 |
アリオス: |
……は? |
セイラン: |
女王様がね、「美味しい蒸しパンを作ってくれた人と結婚する」って宣言したんだよ。 |
ジュリアス: |
さぁ、早く教えろ。 |
オリヴィエ: |
きゃはは、そんなことしなくても、こいつが作ったこの蒸しパンを持って行けばOKじゃな~い☆ |
ジュリアス: |
待て、オリヴィエ。そのような卑怯な真似は許さぬぞ。 |
セイラン: |
とか何とか言って、自分もちゃっかりアリオスの作った蒸しパンを握りしめてるみたいだけど…。 |
ルヴァ: |
そのようですねぇ。 |
セイラン: |
面白そうだから、見物に行こうかな。 |
アリオス: |
……。 |
ルヴァ: |
あ~、アリオス~? 惚けてる場合ではありませんよ~。このままだとあの2人のどちらかがアンジェリークと…。 |
アリオス: |
させるか~!! |
ルヴァ: |
アリオス~! 着替えなくって良いんですか~!! おや、もう見えなくなってしまいましたねぇ。それでは、お城の方へ先回りしましょうか。 |
アリオス: |
…はぁはぁ、ぜぃぜぃ。 |
セイラン: |
あれ? もしかして走って来たのかい? |
アリオス: |
(コクコク) |
セイラン: |
御苦労なことだね。ああ、あの2人は今、城の厨房だよ。 |
アリオス: |
……は? |
ルヴァ: |
実はですねぇ、どちらが作ったのか証明する為に女王陛下の目の前で蒸しパンを作る羽目になっちゃったんですよ~。 |
アリオス: |
んなこと言っても、あの2人は中華風蒸しパンの作り方なんて知らねぇと思うぜ。 |
セイラン: |
そう。だから、もうじき嘘がバレて大変なことになるだろうね。 |
ルヴァ: |
あ~、どうやらバレてしまったようですよ~。 |
セイラン: |
御愁傷様。 |
アリオス: |
あ、ヤバい。あいつら、こっちに来るじゃねぇか。俺、ちょっと隠れるわ。 |
セイラン: |
今ごろになってその格好が恥ずかしくなってきたのかい? |
アリオス: |
何とでも言え。大体、俺が言うのもなんだが、どうしてこの城は俺みたいのが勝手に庭まで入り込めるんだ? しかも、こんな早朝に…。 |
セイラン: |
それは言わないお約束だよ。 |
レイチェル: |
ちょっと、アナタ!! |
セイラン: |
何だい? |
レイチェル: |
アナタが手にしているのは蒸しパンに見えるのだけど…。 |
セイラン: |
ええ、その通りですよ。 |
レイチェル: |
陛下に味見させてもらえるかしら? |
セイラン: |
御命令とあらば…。 |
アンジェ: |
では、命令です。 |
セイラン: |
どうぞ。 |
アンジェ: |
(はぐはぐ) |
レイチェル: |
どう? |
アンジェ: |
さっきと同じだわ。 |
レイチェル: |
これは、アナタが作ったの? |
セイラン: |
いいえ。作ったのは…。 |
アリオス: |
わ~っ!! 莫迦、放せ~っ!! |
セイラン: |
うるさいなぁ。この僕が珍しく君に親切にしてやってるんだから、好意は有り難く受け取りなよ。 |
アリオス: |
どこが、親切なんだ。ただの嫌がらせだろうが。 |
ルヴァ: |
セイランがレイチェル達と話している間に魔導で着替えてしまえば良かったんですけどねぇ。 |
アリオス: |
そういうことは、先に言え~っ!! |
アンジェ: |
あら、あなたは…。 |
アリオス: |
見るな~っ!! |
アンジェ: |
うふふ、あなたは何着ても格好良いわよ。 |
アリオス: |
こんな格好してる時に言われても全然嬉しくねぇぞ。 |
レイチェル: |
知り合い? って、ちょっと何やってんのヨ!? |
アンジェ: |
えっ?三角巾を外そうと思って…。 |
レイチェル: |
だからって、そんな抱きつくような体勢でやるんじゃないわヨ。 |
セイラン: |
こういうのは、こうやって引っぺがせばいいのさ。 |
アリオス: |
痛っ!! 髪引っぱりやがったな。 |
アンジェ: |
前髪を下ろして、と…。うふふ、そうよ、この顔よ。そして…。 |
レイチェル: |
あ~っ、ちょっと何やってるのヨ!? |
アンジェ: |
何って、キスしちゃいけなかった? 間違いないわ。私の結婚相手はあなたよ♪ |
ルヴァ: |
あ~、めでたし、めでたし…でしょうかねぇ。 |