ブルフェンを透析患者に投薬できますか?


ある日、血液透析の患者さんに、ブルフェン(一般名イブプロフェン;非ステロイド性抗炎症薬))が処方されました。
ブルフェンは、「重篤な腎障害に禁忌」です。
この場合、この患者さんにブルフェンを投薬しても問題ないのでしょうか?


ブルフェンの薬物動態を元に検討してみました。

項  目 ブルフェンの試験データ
(添付文書、インタビューフォームより)
 考    察 
O/W 比;
n-オクタノール/水
分配係数
9.92 9.92という数値は、ブルフェンは油に溶けやすい「脂溶性」薬物であることを示しています。

この値が大きくなるほど、脂溶性が高いことを示します。
例;脂溶性薬物プロプラノロールの O/W 比=20.2
  水溶性薬物アテノロールの O/W 比=0.02 (参考文献3より引用)
分子量 206.28 透析膜の小孔は、ちょうど「ふるい」のようなものです。
この小孔を通過できないぐらい大きい分子(分子量1500以上程度?見解さまざま)は、透析除去されず、体内にとどまります。

分子量206は、充分透析膜を通過しうる(透析除去される)ほど小さい値です。
よって分子量だけを見ればブルフェンは透析除去される薬物であるといえます。
分布容積 0.12(リットル/kg) この値が大きいほど、薬物は血液よりも組織の方に多く分布することを示します。 

たとえば、心筋組織への移行性が高いジゴシンの分布容積は、末期腎障害患者例で 5(L/kg)と高値です。
また、脂溶性が高い薬物は 一般に脳や脂肪組織へ移行し易い傾向にありますが、この例として、メジャートランキライザーのセレネースは、その分布容積が29(L/kg)とたいへん大きい値を示しています。(参考文献3より引用)

血液透析では血液中の物質をろ過するため、組織に多く移行しているような分布容積の大きい薬物は、透析除去されにくくなります。

ブルフェンの分布容積は 0.12(L/kg)と極めて低く、組織に移行せず、ほとんど血漿中に存在することを意味します。
よって、ブルフェンは分布容積が小さいため、このデータをみるかぎり、血液透析によって取り除かれ易いといえます。
血漿蛋白結合率 99% 高分子である蛋白質と結合している薬物は、分子量が大きくなるため、透析膜を通過できません。

ブルフェンは血漿中で、99%が血漿蛋白と結合していることを示しています。蛋白結合率は非常に高値です。
蛋白結合率の高いブルフェンは極めて透析除去されにくい薬物であるといえます。
血液透析除去率 データなし ブルフェンは分子量が小で分布容積も小さいですが、
「蛋白結合率 99%」という高い数値から、総合して
ブルフェンは極めて透析除去されにくい薬物であることが推測されます。
代謝・排泄 肝代謝物;薬理活性なし


腎排泄;未変化体なし
薬物の影響が体内から消失するには、大きく2つの過程があります。
1つは肝臓での代謝、もう1つは腎臓からの排泄です。

肝代謝型薬剤;
主に脂溶性の薬物は、肝臓でその構造に変化が加えられ(代謝)、水溶性物質に変化します。
肝での代謝を受けることによってこの薬物の活性が失われる場合、この薬物は肝代謝によって消失したと言えます。
このように肝臓の働きによって消失される薬剤が、肝代謝型薬剤です。
代謝産物は水溶性が増しているので、あとは主に腎臓から体外へ排出されます。

腎排泄型薬剤;
主に水溶性の薬物は、肝臓での代謝を受けず、そのままの形(未変化体)で腎から排泄されます。
このように未変化体のまま腎から排泄されることにより消失する薬剤が、腎排泄型薬剤です。

腎不全に陥ったとき、薬物の消失を腎臓に頼る「腎排泄型」薬剤の方が、大きな影響を受けます。
具体的には、半減期が延長する、などの異常が、データに現れます。

尿中に代謝物のみ検出され、未変化体が認められないことから、ブルフェンは、肝代謝型薬物と考えられます。

血液透析の影響(まとめ);

ブルフェンは、先述のように透析除去はされにくいと思われますが、透析膜からの排泄がなくても、肝臓が薬剤を代謝し、消失してくれるものとみられます。

このとき気をつけたいのは、肝臓でできた代謝物に、薬としての働き(薬理活性)が残っている場合です。
腎から排泄されるべきこの代謝物が、腎不全の影響で排泄されずに体内に残るとすると、蓄積をまねきます。
ブルフェンには2種類の代謝物が認められていますが、このいずれの代謝物にも薬理活性はなく、よって蓄積の問題はないと思われます。

以上より、血液透析患者にブルフェンを投与しても、問題ないと思います。
(H 12.09.07)


<参考資料、文献
1) 「ブルフェン」 添付文書
2) 「ブルフェン」 インタビューフォーム
3) 平田純生 他 :「透析患者への投薬ガイドブック」 じほう 

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