薬の話


糖尿病薬服用時の低血糖

糖尿病の初期には、食後血糖値のみが高くなる(空腹時には正常値に戻る)、食後過血糖という症状から始まります。
こうした食後過血糖を抑える薬として、α-グルコシダーゼ阻害剤とよばれるものが有ります。



<院外処方せん>
ベイスンOD 0.3mg 3錠
毎食直前

アマリール 1mg 2錠
朝夕食後
14日分

SU剤のアマリールは今まで1日4錠服用していたが、今回より1日2錠に減らされていた。
α-グルコシダーゼ阻害剤のベイスンを服用しているため、低血糖時には砂糖ではなくブドウ糖を摂取するよう指導されていた。
薬剤師: こんにちは。今日は、アマリールが半分に減りましたね。
何か、変わったことがありましたか。
患者: はい、低血糖を起こして、フラ〜っとなったんです。
薬剤師: そうでしたか。低血糖を起こしたときは、どうされましたか? 
患者: 以前にいただいていたブドウ糖一袋(10g)を、飲みました。
薬剤師: そうですか。
今回はアマリールが半分に減りましたので前よりは低血糖を起こしにくいとは思いますが、念のため、今までどおりブドウ糖を常に携帯するようにしてください。







ブドウ糖や果糖は、糖質を構成する最小単位で、単糖類と呼ばれています。
砂糖(ショ糖)やオリゴ糖、デンプンなどの糖質は、単糖類がいくつか連なった形をしています。

砂糖は、ブドウ糖と果糖が一つずつ結合したもので、二つの単糖類からなるため、二糖類と呼ばれています。
オリゴ糖は単糖類が2〜数個結合したもので、少糖類と呼ばれています。
一方デンプンは、単糖類がたくさん連なったもので、多糖類と呼ばれています。

デンプンや砂糖、オリゴ糖などの糖質は、これらを食べても、そのまま吸収されるわけではありません。
最小単位であるブドウ糖や果糖などの単糖類にまで分解された後で、吸収されます。
こうした糖の分解に携わるのが、アミラーゼやグルコシダーゼとよばれる消化酵素です。

デンプンなどの多糖類は、アミラーゼという消化酵素によって不規則に結合を切断され、オリゴ糖にまで分解されます。
さらにα-グルコシダーゼとよばれる酵素によって、単糖類にまで分解されます。
単糖類にまで細かく分解されることによって、ようやく消化管から吸収されるのです。

上記のベイスンは、食後の血糖値の異常な上昇を抑える薬です。少糖類を単糖類にまで分解する酵素であるα-グルコシダーゼの働きを抑えて糖の吸収を遅らせる薬で、α-グルコシダーゼ阻害剤とよばれています。 
α-グルコシダーゼ阻害剤は、ベイスン以外にセイブルやグルコバイが有ります。

グルコバイは、デンプンなどの多糖類を少糖類にまで分解する酵素であるアミラーゼの働きを抑えますが、少糖類を単糖類にまで分解する酵素であるα-グルコシダーゼを阻害する働きは、ベイスンやセイブルほど強くはありません。

逆に、ベイスンやセイブルは、アミラーゼを阻害する働きはほとんどありません。主にα-グルコシダーゼを阻害します。

糖尿病の人は、食事をしてもインスリンの分泌が遅れがちで、そのため食後にインスリン分泌が間に合わず、食後血糖値が異常に高く上がります。糖尿病の初期はこのような病態から始まり、まず食後の血糖値だけが高くなります。
このようにインスリン分泌が遅れた人でも、α-グルコシダーゼ阻害剤によって糖の吸収も遅らせることにより、タイミングを合わせることができるのです。こうすることにより、食後過血糖は抑えることができます。

食後の過血糖は、動脈硬化を進展させ、心筋梗塞などの心血管障害を起こしやすくすることがわかっています。よって、食後過血糖を抑えることは、心血管系の合併症を防ぐという意味で、重要なものです。

α-グルコシダーゼ阻害剤の単独服用では低血糖を起こす心配はあまり有りませんが、上記の患者さんのようにSU剤のアマリールなど他の糖尿病薬が併用されると、低血糖を起こしやすくなるため、注意が必要となります。

α-グルコシダーゼ阻害剤服用時は、単糖類への分解が抑制されているので、低血糖時にペットシュガーなどのショ糖を飲んでもすぐには血糖値を上昇させることはできません。
ショ糖ではなく、すでに最小単位にまで分解された形の、ブドウ糖を摂取する必要が有ります。
しかし、ブドウ糖はどのようにすれば手に入るのでしょうか?

市販のジュースにもブドウ糖は含まれますが、ジュースでは、常に持ち歩くのも不便です。
またジュースに含まれる甘味料は、果糖とブドウ糖が約半分ずつ入ったものです。飲んでもその甘味料の約半分しかブドウ糖しか得られません。
残り半分の果糖も、ブドウ糖と同じ単糖類ですが、果糖ではブドウ糖の代わりにはなりません。
果糖を服用すると、体内で果糖の一部はブドウ糖に変換されますが、大半は果糖独自の代謝経路で代謝されてしまうため、血糖値を上げる効果は薄いのです。確実に血糖値を上げるには、やはりブドウ糖を服用することが必要です。

ベイスンやグルコバイ、セイブルなどが出たら、その薬をもらった医療機関で、同時にブドウ糖も求めてください。
医療機関はたいていメーカーからブドウ糖を無償提供されているため、患者さんに渡すブドウ糖を持っていると思います。




α-グルコシダーゼ阻害剤は、糖質の吸収を遅らせるため、消化されない糖質が腸管内に増えて、異常発酵を起こしやすくなります。このためガスがたまっておならが出やすくなります。我慢をしないで出しましょう。しかし膨満感などが強い場合は、早めに主治医に相談してください。


α-グルコシダーゼ阻害剤のうち、ベイスンとグルコバイは、ほとんど腸管から吸収されません。小腸壁に存在するα-グルコシダーゼを阻害することで、薬効を示しています。
薬効を現す場所は腸管壁であり、ほとんど吸収されずにそのまま排泄されるはずのベイスンやグルコバイですが、重い肝障害の副作用を起こす例が報告されています。少しだけ吸収され、血液内に入った薬が、アレルギー性の肝障害を起こしているのでしょうか。
吸収されないとされる薬ですが、やはり注意は必要だと思います。


薬の話 No.67/平成19年3月11日)
 
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