薬の話


イトリゾールのパルス療法


皮膚科の処方箋
<院外処方せん>
イトリゾール50mg 8カプセル
分2 朝夕 食直後

7日分
薬剤師: こんにちは。今日はどういう症状で皮膚科を受診されたのでしょうか?
患者さん: 足の爪の水虫です。
薬剤師: 今日はイトリゾールというお薬が出ています。爪に入った水虫の菌は、塗り薬だけではなかなか薬が浸透しにくく、良くなりません。それで飲み薬を使います。薬を内服することで、爪に薬を蓄積させて、菌を殺すことになります。1日に8カプセル服用します。
患者さん: 8カプセルも飲むんですか?
薬剤師: そうです。朝4カプセル、夕4カプセルです。食事が済んですぐ服用したほうが吸収が良いので、「食直後」と指示されています。
服用を1週間続けた後、次の3週間は薬をのまない休薬期間となります。このサイクルを3回くり返します。
ところで、イトリゾールは飲み合わせの問題が多い薬ですが、今何かこのほかに薬をのんでいますか?
患者さん: いいえ。何ものんでいません。
薬剤師: そうですか。もし他の病院を受診されて何か薬を処方されることがあれば、必ずイトリゾールを服用していることをその医療機関にお伝えください。たとえ休薬期間であっても、イトリゾールの影響が残っていることもありますので、休薬期間であっても必ずお伝え下さい。




水虫は、カビ(真菌)が原因となる疾患です。
イトリゾールは、真菌の細胞膜構成成分であるエルゴステロールの生合成を阻害することにより、真菌を死滅させます。

真菌のエルゴステロールは、真菌体内でチトクロームP−450という酵素の助けを借りて、生合成されます。
イトリゾールはこの真菌のチトクロームP−450働きを阻害することにより、エルゴステロールの生合成を抑えるのです。
一方、ヒトの細胞膜の構成成分はエルゴステロールでなくコレステロールであるため、イトリゾールは「真菌には毒だが、ヒトには無毒」という選択毒性を発揮できるのです

チトクロームP−450は、微生物から高等動物までの体内に広く分布する酵素で、生体内で行われる化学反応を助けたり、薬物の代謝がスムーズに行われるのを助けたりしています。
チトクロームP−450と一口に言っても、ただ一つの物質ではなく、実にたくさんの種類があります。しかしどのチトクロームP−450も共通して、ヘム鉄という化学構造の部分を有しています。イトリゾールは、チトクロームP-450の このヘム鉄の部分に結合し、チトクロームP−450の、酵素としての働きを阻害します。

しかし、イトリゾールが阻害するチトクロームP−450は、真菌のものだけではありません。ヒトの肝臓内に多く存在するチトクロームP−450の働きも阻害します。ヒトの肝臓内に多く存在するチトクロームP−450は、薬物の代謝に関わる酵素で、これが阻害されると、薬物は代謝されず、高濃度に体内に残ることになります。このため、とくにイトリゾールが阻害しやすい種類のチトクロームP−450で代謝される薬は併用禁忌となっています(下表)。

イトリゾールのパルス療法では、7日間服用した後、休薬期間に入りますが、この間 血液中のイトリゾールは代謝されてどんどん量が減ってきます。イトリゾールの消失半減期はほぼ1日なので、1日たつと、血液中のイトリゾールの濃度は半分になります。2日たつと1/4に、3日たつと1/8に、4日たつと1/16になります。 ・・つまり4日目ではイトリゾールの94%は消失しているので、血液中から薬は消えたといっても良いでしょう。

しかし、肝臓には、血液中に比べ、イトリゾールが高濃度に分布します。
薬物の代謝が行われる場所は肝臓です。この肝臓で、血液中に比べて高濃度にイトリゾールが残存すれば、薬物の代謝をする酵素は、より長い期間阻害されることになります。
イトリゾールが、血液中では4日で消失しても、肝臓での酵素阻害の影響はもう少し長く続くと思われます。
したがって、たとえ休薬期間であっても、併用薬との相互作用には注意が必要です。


イトリゾ−ルと併用禁忌の薬
精神神経用剤 オーラップ
不整脈治療剤 硫酸キニジン錠など
睡眠導入剤 ハルシオンなど
高脂血症治療剤 リポバスなど
高血圧治療剤 カルブロック
片頭痛治療剤 カフェルゴット、ジヒデルゴットなど
ED治療剤 レビトラ錠
消化管運動賦活剤 アセナリン、リサモール

薬の話 No.65/平成18年8月27日)


 


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