薬の話


胃にやさしいアスピリン製剤

ある知人から、次のような質問を受けました。

狭心症の持病があってバイアスピリンを服用しています。
毎朝、食後に1錠のんでいます。
この薬をもらう薬局では薬の説明書を出してくれるのですが、それには「バイアスピリンと牛乳は一緒にのまないように」と書いてありました。
どうして牛乳と一緒にバイアスピリンをのんではいけないのでしょうか。
私は牛乳が好きで、毎朝欠かせません。


アスピリンは、血小板の働きを抑えて血栓ができるのを予防する薬ですが、副作用で胃を荒らすことが知られています。

バイアスピリンは、「腸溶錠」といって、胃のような強酸性条件下では溶けず、腸に入って中性になると溶けるような製剤になっています。腸溶性の皮膜をコーティングすることにより、胃を素通りして、腸に到達してから初めて溶け出るような工夫をしてあるのです。これによって胃を荒らす副作用は軽減します。

しかしCa分を多く含む牛乳をたくさん飲むと、胃酸を中和してしまうため、胃のpHが上がって、本来は腸で溶けるはずの腸溶性皮膜が胃で溶けてしまい、アスピリンが胃で溶出してしまいます。これによって胃を荒らす恐れが出るのです。

胃が弱いなら、バイアスピリン服用時に、牛乳は避けたほうが無難かもしれません。せっかくの腸溶錠になっているのですから。


  


実際牛乳は、バイアスピリンにどれほどの影響を与えるのでしょうか?

アスピリンは弱酸性(pKa=3.5)の薬剤であり、pH3.5を境にして存在形式が大きく変わります。
pH3.5以下の強酸性領域では電離しない分子型で存在し、pH3.5以上の条件下では、ほとんどがイオン型で存在します。
たとえば牛乳を大量に飲んで胃酸が中和され、腸溶性のフィルムコーティングが溶けるほどpHが上がったと仮定しても、そのような条件下では、溶出したアスピリンも大部分がイオン型で存在すると予測されます。
一方、胃粘膜は脂質膜であり、イオン化した薬剤は透過しにくい性質があります。
よって、腸溶性コーティングが胃で溶けたとしても、溶出したアスピリンはイオンの形で存在して胃粘膜からは吸収されにくいため、胃は荒らしにくいと思われます。(小腸でもpHが高いため、アスピリンはイオン型で存在します。小腸粘膜も胃と同じ脂質膜ですが、小腸の場合は、別の機構によって、イオン化したアスピリンでもきちんと吸収されます。)


  

腸溶製剤はバイアスピリン以外にも、多く存在します。
薬が、胃を荒らしたり、胃酸によって効力を失ったりする場合に、腸溶製剤にするなどの工夫がされます。
牛乳だけでなく、胃酸を中和するような胃薬や、胃酸の分泌を抑える胃薬も、胃のpHを上げ、腸溶製剤のフィルムを壊してしまいます。
バイアスピリンの場合は、上記のような理由から、腸溶性が壊れても胃への負担が大きく変わることは無いと思われます。しかし、他の腸溶製剤については、注意が必要です。


薬の話 No.62/平成17年11月28日)

 

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