薬の話


耐 性 乳 酸 菌

まぶたが大きく腫れた患者さんが、眼科の処方箋を持って薬局を訪れました。

<院外処方せん>
ケフレックス(250mg) 
4カプセル

毎食後と寝る前
4日分
薬剤師: こんにちは。今日は抗生剤が出ていますが、どうなさいましたか?
患者さん: しばらく前から目が痛くて。今日はまぶたも腫れてきたので受診しました。
先生には、「ものもらい」だといわれました。
薬剤師: そうですか。今日はケフレックスという抗生物質が出ています。
これを飲むと下痢をしやすいので、気をつけてください。
患者さん: 下痢をしやすいんですか?
薬剤師: そうですね。
抗生剤とは、細菌をやっつける薬です。この抗生剤でまぶたの細菌だけを抑えてくれればいいのですが、どうしても腸内細菌にまでもダメージを与えてしまいます。抗生剤によって腸内細菌のビフィズス菌などの善玉菌までダメージを受けると、腸内細菌叢のバランスが崩れ、下痢をしやすくなってしまいます。
患者さん: 今、すでに下痢気味なんです。善玉菌を補えばいいんですね。
市販のビオフェルミンが家にあるんですが、この抗生剤と一緒に飲んだほうがいいですか?
薬剤師: ビオフェルミンのような普通の乳酸菌は、抗生剤と一緒に服用しても、抗生剤によってやられてしまいます。
抗生剤にも耐えるような強い乳酸菌製剤(ビオフェルミン
R)もありますので、先生に一度相談してみましょう。

処方医に、患者さんが下痢気味であることを伝えた結果、ビオフェルミンR が追加になりました。




抗生剤による下痢は、よく起きる副作用の一つです。頻回の水様便や血便といった場合は、腸内に非常に有毒な細菌が繁殖した恐れがあり緊急を要しますが、ただ少し軟便程度であれば、それほど心配する事はありません。これらは上にも書いたように、抗生剤によって腸内細菌にまでもダメージが与えられ、腸内細菌叢のバランスが崩れたことによるものです。

バランスを整えるため乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌を補ってやろうとしても、抗生剤服用時は、この抗生剤によって、せっかく補った善玉菌までも死滅してしまいます。そのため、抗生剤服用時は、抗生剤にも耐えうる強い乳酸菌(耐性乳酸菌)を補う必要があります。ビオフェルミンR、ラックビーR 、エンテロノンRなど、語尾にRがついた名前になっている製剤は、抗生剤にも耐えうる強い乳酸菌(耐性乳酸菌)であることを表しています。

時々、抗生剤とともに、R製剤ではない、普通の乳酸菌製剤が処方されてくる場合も見受けられます。
例えば抗生剤であるケフレックス処方時に、「ラックビーR」ではなく、単なる「ラックビー」が処方されてきた場合などです。このとき、乳酸菌「ラックビー」はケフレックスによって死滅し、全く無効になってしまうのでしょうか?

セファレキシンに対するMIC(μg/ml)
ラックビーR ラックビー
20000 6
乳酸菌が抗生剤に対してどれだけ抵抗力(耐性)を持っているかを示す尺度として、「MIC」という数値があります。
左の表はケフレックス(一般名:セファレキシン)という抗生剤に対して、ラックビー、ラックビーRという二つの乳酸菌がどれくらい耐えうるのかを示しています。
ラックビーの場合、MICは6μg/mlです。これは、ケフレックス(セファレキシン)濃度が6μg/ml以上になると、乳酸菌ラックビーは生育できないことを示します。
これに対し、ラックビーRの場合、MICは20000μg/mlであることから、セファレキシン濃度を20000μg/mlという非常に高濃度まで上げて、ようやく乳酸菌ラックビーRの発育が阻止されることを示しています。それだけ、ラックビーRは、セファレキシンに耐えうるということを表します。

ケフレックスを1カプセル服用したとき、血液中のセファレキシン濃度は最大5.5μg/mlになります。
ラックビーのMICは6μg/mlですから、この血液中濃度だと、ラックビーでも(R製剤でなくても)生育することができます。
しかし、抗生剤と乳酸菌が接するのは、血液中ではありません。血液に吸収される前段階の、消化器官内です。
抗生剤と乳酸菌は同時服用され、ともに消化器官内を移動します。このときの抗生剤濃度は、5.5μg/mlどころではなく、非常に高濃度に達しているものと思われます。そうした高濃度のもとでは、やはり乳酸菌もR製剤でないと、生き延びることができないと思います。

薬の話 No.58/平成17年1月18日)


<参考文献>
ラックビーとラックビーRの耐性値比較:日研化学(株)くすり相談室資料

 

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