薬の話


妊娠 と 薬 (2)




26歳の女性が、院外処方箋を持って薬局を訪れました。
マイコプラズマ感染症との診断で、数日前より、マクロライド系抗生剤のクラリス(一般名クラリスロマイシン)を服用しています。

<院外処方せん>

クラリス(200mg)    2錠
  1日2回 朝夕食後

4日分

薬剤師: こんにちは。今日も前回と同じ、クラリスが出ていますね。
前回この薬を飲まれて、なにか気がかりなことはありませんでしたか?
患者さん: はい、咳の方はだいぶ楽になりました。
あの、妊娠中もこの薬を飲んで大丈夫でしょうか?
薬剤師: 今現在、妊娠されているのですか?
患者さん: いえ、まだわかりません。ただ、今のところ可能性がある・・というだけですが。
薬剤師: そうですか。たとえば、生理が遅れている・・とか?
患者さん: いいえ。まだそこまでも行っていません。
薬剤師: そうですか。では、もし妊娠されていたとしても、まだ1ヶ月ですね。
妊娠1ヶ月の頃は、薬のことは心配しなくてもいいと思いますよ。

次の生理が来る日からは2ヶ月目に入ります。妊娠2ヶ月は最も薬に対して影響が大きい時なので、気をつけていただきたいです。
もし生理が1日でも遅れたら、妊娠の可能性も考えて、早めに受診して、一度先生と薬について相談してください。






薬を服用しながら赤ちゃんが欲しいと望まれる方も多いと思います。
理想を言えば、治療が完結して薬の必要がなくなってから、妊娠されることが一番安心です。
しかし慢性的な疾患でいつまでも薬が手放せない場合や、妊娠中に病気になった場合などは、妊娠中でも薬が必要となります。
こうした場合は、妊婦さんにとって最も安全な薬が使われるべきです。

一般に感染症の場合、治療薬としての抗生剤は、ペニシリン系やセフェム系がもっとも妊婦にとって安全だとされています。
しかし、こうしたペニシリン系やセフェム系が効かない感染症も有ります。例えば上の話のようなマイコプラズマ感染症がそうです。

感染症の原因となっている細菌の細胞は、「細胞壁」という殻に覆われています。細胞壁は外界のさまざまな刺激から菌体を守っています。
ペニシリン系やセフェム系の抗生剤は、この細胞壁を作るのを妨げることにより、菌を死滅させます。細胞壁が無くなった細菌は、もろに外界の過酷な環境にさらされ、やがて破裂して死んでしまうからです。
しかし、細菌とウイルスの中間に位置するマイコプラズマには、もとから細胞壁がありません。
もともと細胞壁が無いマイコプラズマにとって、細胞壁を作るのを妨げるペニシリン系やセフェム系抗生剤は、もちろん無効です。

マイコプラズマの場合、菌のタンパク合成を阻害することで抗菌作用を示すマクロライド系やテトラサイクリン系の抗生剤が有効となります。
テトラサイクリン系は、妊婦さんにとってあまり好ましい薬剤ではありません。よって妊婦さんには、より安全なマクロライド系の抗生剤が使われるべきです。
上記例のクラリスロマイシンも、マクロライド系です。

クラリスロマイシンは胃酸に安定で効き目も強く、また効果が長く持続するなどの特長があります。
よって、一般に、マイコプラズマにはクラリスロマイシンが使われることが多いようです。

一方、妊婦さんの場合は、マクロライド系の中でもより安全性が高いと思われるエリスロマイシンが処方されることが多いようです。

生理が1日でも遅れると、妊娠2ヶ月に入った可能性があります。妊娠2ヶ月から4ヶ月ごろまでは、薬の影響をもっとも受けやすい時期です。とくに妊娠2ヶ月はもっとも薬に対して過敏な時期です。
しかし、明らかに催奇形性が認められているのはごく一部の薬剤であり、大部分の薬はたとえこうした過敏期の妊婦が服用しても問題ないと思います。でも、できれば薬は飲まないにこしたことはありません。
しかし、病気によってはどうしても薬が必要な場合もあり、この場合は、薬の選択肢があるのならできるだけ安全な薬が選ばれるべきです。

妊娠2ヶ月は、薬の影響をもっとも受けやすい時期であるにもかかわらず、まだまだご本人が妊娠を自覚していない時期でもあります。そのため「妊娠に気付かず、あの時薬飲んじゃったけど大丈夫!?」と、後で慌てる場合も少なくありません。

いまは尿につけるだけで迅速に妊娠をチェックできるキット(妊娠検査薬)が、薬局で簡単に手に入るようになりました。
薬の影響を最も受けやすい妊娠2ヶ月の時期をより安全に過ごすため、できるだけこうした妊娠検査薬や基礎体温表などでいち早く妊娠を確認していただきたいと思います。


薬の話 No.50/平成 15年 2月22日)



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