薬の話


薬 の 含 有 量


薬剤師 / 患者さん(男性)

ある病院で、私は患者として、薬ができるのを待っていました。その時患者さんらしい男性が投薬カウンターのむこうの薬剤師に声をかけました。
その男性は薬について、その薬剤師に質問を始めました。私は雑誌を読みながらも、耳をそばだてて二人の会話を聞いていました。


ちょっと薬について教えて下さい。いま、高血圧で病院に通っているんだけど、今回先生が変わると同時に、薬も変わったんです。今までのんでたくすりは25mgだったけど、今回のは40mgになっているんです。これって、強い薬に変わったということですね。


ちょっとお待ちください。お飲みになっている薬の名前を調べます・・・
今までお飲みになっていたのが「テノーミンの25mg」、そして今回出されたのが「ディオパンの40mg」ですね。


・・で、25mgから40mgになったということは、薬が強くなったんでしょ?
ぼくは、強い薬はあんまり飲みたくないんだけど。


いいえ、そういうわけではありません。テノーミンとディオパンは全く系統が違う薬なので、単純にmg数だけでは比較できないんですよ。




ディオバンは、少し難しい話になりますが、AT1受容体ブロッカーと呼ばれる系統の降圧剤です。
アンジオテンシンUという血圧を上げる物質(昇圧物質)があるのですが、ディオバンはこの昇圧物質の働きを抑えることにより、血圧を下げます。
これに対しテノーミンはβブロッカーと呼ばれる系統の薬で、心臓の働きを緩やかにして、血圧を下げる薬です。


このようにテノーミンとディオパンはどちらも血圧を下げる薬なのですが、血圧を下げる方法、つまり作用機序は全く違います。
化学的な構造式も全く違います。
このように全く系統の違う薬は、上述の薬剤師も言っているように、単純にmgで、効力の強さを比較することはできません。


mgの違いがそのまま薬効の強さに結びつくのは、全く同じ成分の薬の場合だけです。
たとえば、ディオバンには含有量が20mg、40mg、80mgという3種類の製品があります。
これらは全く同じ成分ですから含有量で単純に比較ができます。つまり20、40、80mgと含有量が多くなればなるほど、薬が強くなるといえます。

では、全く同じ成分でなくても、同じ系統の薬であれば含有量の比較ができるのでしょうか。

たとえば骨粗鬆症の薬についてみてみましょう。
1990年にビスホスホネート類と呼ばれる骨粗鬆症の薬が承認、発売されました。骨吸収(骨から血液へカルシウム分が溶け出ること)を抑える薬です。
出始めの薬はエチドロネート(商品名;ダイドロネル)といい、含有量200mgの錠剤でした。
薬は、よりシャープな効き目を求めて日夜研究が続けられます。エチドロネートも例外ではなく、より活性の高い化合物ができないものかと研究が進みました。そこでエチドロネートの化学構造式にアミノ基をくっつけることにより、なんと薬効が100〜1000倍にもアップした新しい化合物ができました。この化合物はアレンドロネート(商品名;フォサマックなど)として現在発売されています。アレンドロネートは強い活性があるため少しの量だけで効きます。錠剤含有量はエチドロネートの200mgよりずっと低く、5mgです。

アレンドロネートは、エチドロネートの化学構造を少しだけ変化させて生まれました。ですからこれらは同じ系統の薬です。
最初にできたエチドロネートは200mg錠ですが、アレンドロネートは5mgです。
しかし、5mgだから効き目が弱いという意味ではありません。いえ、5mgぐらいの少量でも十分効くという意味で、かえって効き目はシャープな薬だといえるのです。

では、全く違う系統の薬の場合は、含有量の比較ができるのでしょうか?
これが、最初の病院での会話例に当たるのですが、系統が全く違う薬では、含有量の比較はできません。
先ほども書きましたが、テノーミンはβブロッカーといって、心臓の働きを鎮めることにより血圧を下げる薬です。
ディオバンは、昇圧物質のアンジオテンシンUを抑えることにより血圧を下げる薬です。
これら二つの薬は化学構造も作用機序も全く異なり、mgを比較しても何の意味もありません。


降圧剤には、上述のβブロッカーやAT1受容体ブロッカー以外にも、Ca拮抗剤や利尿剤、ACE阻害剤などの種類の薬があります。どの系統の薬剤であってもさほど降圧効果に差はないようです。
それよりも、他の合併症や、患者さんの薬に対する感受性などを考慮して、より好都合な薬が選択される場合が多いようです。


この病院で気になったことが一つありました。それは、テノーミンが中止になり、薬がディオバンに代わったという点です。
長い間テノーミンのようなβブロッカーを服用してきた人が、急に薬を中止すると、動悸がしたり血圧が上がったり・・という症状が現れることがあります。
βブロッカーから他薬に変更する場合は、少しずつ減量しながら他薬に移ることが理想ですが、必ずしもそのような処方になっているとは限りません。
そこで、患者さん自身も、薬が変更になった場合は体調の変化に気をつけながら、もし異常があれば直ぐ主治医に伝えることが大切だと思います。

薬の話 No.48/H 14.11.14)
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