薬の話


経口摂取できない患者さんの栄養


薬剤師 / 患者さんの娘


薬局に、若い女性が入ってきました。何かを探しておられるようです。



いらっしゃいませ。何をお探しですか?



あのぅ、1口食べるだけで1日の栄養が充分摂れるような栄養剤はありませんか?



えっ、1口だけですか?



ええ、うちの父なんですけれど、実は大腸がんの末期で、もうあまり永くないんです。 一時的に退院してきたんですが、食事にとても苦労しています。
1口は食べることができても、2口目からは吐いてしまって食べることができないんです。だから、一口だけで栄養が充分摂れるようなものは無いかと探しているんです。


そうですか・・。うちの薬局で一番効率の良い栄養剤といえば、この「エンシュアリキッド」ぐらいですねぇ。



それは、どれぐらいの量を食べればいいのですか?



液状なので、食べるというより、飲むことになりますね。・・でも1日に必要な量を摂るには、この250ml入りの缶で 5、6缶は飲まないと・・



5、6缶?! 絶対そんなに飲めません。それに液状のものは、とても むせ易いんです。


水も飲めない状態では、困りますね。点滴などで補給しないと無理じゃないかなぁ・・。
退院のとき、主治医の先生は食事に関して何とおっしゃっていたのですか?



先生は、薬局で食べられるものを買って、少しでもいいから食べさせてあげるように、というお話でした。



そうですか・・。そのような効率のいい食べ物は無いんですよ。とりあえずはこのエンシュアを、食べられるだけでも食べさせてあげますか?
・・・でも、この状態を長く続けるのは問題ですねぇ。



わかりました。もう一度主治医の先生に会って、相談してみます。エンシュアは、結構です。



そう言って、若い女性は帰って行かれました。






経口摂取できなくなった患者さんに、1日に必要な栄養補給する方法として、静脈栄養経管栄養の2種類の方法があります。
経管栄養とは、鼻などから胃へ管を通し、その管を通して栄養剤を入れる方法です。上述のエンシュア・リキッドは、そのときに用いる栄養剤です。
通常は管を通して入れるのですが、香り付けがされているので経口的に飲むこともできます。一日に必要な栄養素が配合されており、これを所定量飲むだけで、1日に必要な栄養、カロリー、水分の全てが補われるのです。

一口で充分な栄養を・・宇宙食のようなものをイメージしてしまいます。もしそのようなものがあれば、食べることができずに苦しんでいる人たちが、どれだけ救われることでしょう。実際、こうした宇宙食の研究の元に生まれたのが、経管栄養剤なのです。

しかし、このようにいくら効率の良い経管栄養剤といえども、「1口」とはいきません。消化管に障害を起こさないよう、所定の濃度に薄める必要があります。
また、1日に必要とする水分も(2リットルぐらいでしょうか)、摂らなくてはいけません。
とにかくエンシュアリキッドを5〜6缶という量は、栄養成分だけでなく、水分を摂る上でも必要な量なのです。

これだけの栄養や水分を、健康な私たちは毎日なにげなく摂っているのですね。食べることができない患者さんのことを考えれば、この2リットルという栄養液の量はいかに多いことでしょう。ほぼ1日中、管又は輸液ラインに縛られることになります。

訪問看護をされている看護婦さんのお話を伺うことができました。ガン末期の患者さんの場合、最期は食欲も無くなり、患者さんは「食べることがつらい」とおっしゃるそうです。そんなときには、家族も食を無理強いせず、食事のことよりも、家族との最期の時を 大切に過ごしていただきたい・・そうおっしゃっていました。

ガン末期の患者さんが一時的とはいえ自宅に戻るのは、家族との最期のときを大切に過ごす意味があると、私も思います。
この大切なときに、ご本人が「食べる」ことの苦痛から開放され、また家族も食事を求めて走り回らなくて済むよう、点滴やチューブなどの経口によらない栄養補給のルートが確保されていなくてはいけないと思います。

薬の話 No.37/H 13.01.30)

より詳しい説明は、こちら →経口によらない栄養法 


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