薬の話
| 薬剤師 | / | 患者さん |
調剤室の電話が鳴りました。いつも当薬局で薬をお出ししている患者さんからの電話です。
もしもし、いつもそちらで目薬をいただいている○○ですが。
私は酸素透過型コンタクトをつけているのですが、かわき目がつらいんです。それで、市販の「レンズをつけたままで点眼できる涙液型目薬」を買ってきたのですが、緑内障の私が点眼しても大丈夫でしょうか?
![]()
そういった涙液型点眼なら、緑内障の方でも大丈夫ですよ。
![]()
でも、添付文書を見ると、「緑内障の人は使用前に医師又は薬剤師に相談」と書かれているんですが・・
![]()
えっ?! そんな事が書かれていますか?
(恥ずかしながら、そのような記載があることを知りませんでした。)
こういった涙液型目薬は、緑内障の人には良くないんでしょうか?
たとえば、涙を補うと、目の水分が多くなって眼圧が上がるとか・・。
いや、そんなことはないはずです。眼科の先生も、緑内障の患者さんに、よくドライアイの点眼も出されていますし・・。
涙液型点眼に、眼圧を上げるような成分が入っているとは思えないのですが。
添付文書のことは、今からこちらで調べてみます。また分かり次第お電話します。
そう言って、とりあえず電話を切りました。
早速、市販薬の添付文書の情報(大衆薬事典)を調べてみました。
調べてみてはじめて分かったのですが、市販されている殆ど全ての点眼薬の添付文書に先ほどの注意「緑内障の人は使用前に医師又は薬剤師に相談」が記載されているのです。ここまで各社足並みをそろえる背景には、下表のような、添付文書記載内容に関する厚生省の指導があるようでした。
ではなぜ一般点眼薬が、みんな一律に「緑内障の人は事前に相談」となっているのでしょうか。
一般薬添付文書の解説書(文献2)によれば、理由は大きく分けて二つあるようです。
まず1つは、実際に緑内障に良くない成分が入っている場合。これは抗菌目薬の添付文書の書き方で指導されているものですが、充血除去剤などが入っている点眼の場合、散瞳を起こす恐れがあり緑内障を悪化させる場合があるので記載されています。緑内障の中では数少ないのですが、閉塞隅角、あるいは狭隅角といった種類の緑内障の患者さんには注意が必要なものです。
2番目は、かすみ目を効能にしている点眼薬の場合。
| 次の人は、使用前に医師又は薬剤師に相談すること ・緑内障の人 使用中又は使用後は、次のことに注意すること ・本剤の使用により、目のかすみが改善されない場合は 使用を中止し、医師に相談すること |
そのかすみ目が緑内障からくるものかもしれず、市販薬で対処していると手遅れになってしまう恐れがあるため、注意を呼びかけているものです。
点眼しても効果が見られないときは自己判断せずに早く医者にかかりなさい・・そういう意味です。
実際、かすみ目を効能に謳っている薬剤は多く、抗菌目薬を除くほぼ全ての点眼でかすみ目が効能に謳われているようです。
これに関する非常に悲惨な例を、最近体験しました。初老の男性患者さんで、数年前から左目がだんだん見えにくくなってきたそうです。この男性は医者にかかるのが億劫で、自分では白内障だと思い込み、市販の白内障の点眼を使用しつづけたそうです。しかし症状は進み、最近はよく段差につまずいたり階段を踏み外すことが多くなりました。
そしてついに医者にかかったのですが、その時はもう手遅れだったそうです。緑内障で左目はほぼ失明、右目もかなり症状は進み、現在は残された右目の視力を失わないよう一生懸命治療をされています。
市販薬はとても手軽です。しかしこのように過信すると手遅れになると言う落とし穴もあるのです。
添付文書で注意を呼びかけるべき人は、既に緑内障と診断の下った人(医師にきちんとかかっている人)ではなく、緑内障とは夢にも気付かず、自己判断で市販薬を使いつづけている人だと思います。
添付文書に記載すべき最も重要な点は、上表の「本剤の使用により、目のかすみが改善されない場合は使用を中止し、医師に相談すること」の部分だと思います。
しかし、右上表のような書き方の添付文書では、その意図がはっきりとは伝わってきません。
それどころか、パッケージを開けて添付文書を読んだときに、「何か緑内障の人に悪い成分が入っているのかしら?」と、先ほどの患者さんのような不安を抱いてしまいます。
はっきりと意図を伝えるためには、なぜその文章が書かれたのか、その理由も付記する必要があるのではと思います。
(薬の話 No.36/H 12.11.16)
<参考文献>
1)「大衆薬事典」; じほう
2)「一般用医薬品 使用上の注意事項 −解説-」
;じほう
![]() |
TOP | ![]() |