薬の話


妊娠 と 薬 (1)


眼科の院外処方箋を持った若い女性が、薬局を訪れました。目が充血しており、ニューキノロン系抗菌剤のタリビットが処方されています。
この女性は今回が初めての来局で、彼女が記載した問診票には 「妊娠の可能性あり」 と書かれていました。



薬剤師 / 患者さん


お待たせしました。
今日はタリビットという抗菌剤の目薬が出ていますね。


はい。コンタクトレンズで具合が悪くなったので診てもらいました。
先生は「目に少し傷ができている。」と、言われました。


そうですか。この目薬は、細菌による感染を抑える大切な目薬ですので、忘れずに点眼して下さい。
ところで、問診票には 「妊娠の可能性がある」 と書かれていましたが、このことは、先生はご存知なんですか?


はい。さっき診察のときにそのことを伝えました。
そうしたら先生は、「心配することはない。ただ念のため、点眼した後は目頭を押さえるように。」と、私に言いました。


そうですね。点眼した後で目頭を軽く押さえると、目薬が目だけにとどまって、全身に行き渡りにくくなります。
もし妊娠していても、お腹の赤ちゃんに対する影響もずっと小さくなるんですよ。
この薬も、先生は今のあなたの症状に必要だと考えて出されているので、安心して点眼してください。




・・・この患者さんは、1ヵ月後 また薬局に来られました。



こんにちは。今日は、ヒアレインという点眼が出ています。ドライアイなどのときに涙を補って角膜を保護したり、傷んだ部分を修復したりする薬です。
ところで、前回は「妊娠しているかもしれない。」とおっしゃっていましたが、どうでしたか?


はい、やっぱり妊娠でした。いま妊娠 3ヶ月に入ったところで、そのことは先ほど先生にも話しました。
じつは前回、目薬をいただいたときは、あまり真面目に目頭を押さえていなかったんです。あの時はまだ妊娠かどうかもはっきりしていなかったので、あまり薬のことも気にかけていませんでした。 ・・で、今になって、赤ちゃんは大丈夫か、とても心配になっているんです。


そうですか・・。でも大丈夫ですよ。
タリビットの点眼薬は内服薬に比べて薬の含有量がずっと少ないので、その分、胎児への影響も少ないです。目頭を押さえていなかったとしても、まず大丈夫ですので安心してください。
それから今回のヒアレインは、妊娠されていても心配ありませんよ。







妊娠中に服用した薬が胎児に及ぼす影響は、妊娠時期によっても違い、一般に「妊娠 2ヶ月」のころが 薬に関して最も過敏な時期だとされています。
上記の女性も、最初に来局したときが「妊娠2ヶ月」だったと思われます。

しかし妊娠 2ヶ月といえば、「妊娠かも?」と本人が気付いていても、まだ妊娠の確定診断がなされない場合も多いと思います。
でも、こうした「妊娠かも?」の時期こそ、薬の影響を 最も考慮しなくてはいけない時期なのです。
妊娠の可能性がある女性の方にはあとで慌てることの無いよう、薬の服用に関しては細心の注意を払ってほしいと願います。

しかし、妊娠中でも薬が必要な場合はよくあります。このとき処方医は、より安全な薬を選んでいると思います。
そして実際に胎児に影響を与える薬は、ほんの一握りだけなのです。

だからと言って、妊娠中どんどん薬を飲んでいいといっているわけでは決してありません。
市販のビタミン剤といえども、飲みすぎは禁物です。

医療機関で薬を受けるとき、あるいは薬局などで市販薬を買うときは、必ず妊娠している(あるいはその可能性がある)ことをお伝えください。
処方された薬の危険性が高いときは、代替薬があれば、処方医に頼んで より安全な薬へと処方変更してもらうこともできます。







参考までに・・・タリビットの添付文書では、下表
(赤字部分)のように記載されています。

タリビット内服薬は、使用経験が浅く安全性についてまだはっきり分からないという理由から、妊婦に対しては「飲んではいけない薬」と添付文書には表記されています。

タリビット点眼薬は、「有益のみ」と表現されており、この場合は妊婦の方が用いても問題ないと思います。


. 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人に対する措置 理  由 コ メ ン ト
内服 投与しないこと(不可) 妊娠中の投与に関する安全性は確立していない(未確立) タリビットなどのニューキノロン系抗菌剤の内服はすべて、もっとも厳しい「不可」表現になっています。妊婦への投与はできません。

理由は、ニューキノロンが比較的新しい薬で使用経験が浅く、妊婦に用いて安全かどうか、まだよく分かっていないからです。
しかし妊婦に用いて、とくに今までに催奇形の報告があったわけではありません。
あくまでも安全を見越して「不可」としたものと思われます。

しかしニューキノロンは、時を追いその利用が広まるにしたがって、「重大な副作用」の報告が増えてきていることも事実です。

昔から使用されてきた、より安全な抗生物質(たとえばセフェム系、ペニシリン系など)で代替できる場合が多く、こうした代替薬が存在することも、安全性不明のニューキノロン内服が妊婦禁忌にされている理由のひとつかもしれません。
点眼 治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること(有益のみ) 妊娠中の投与に関する安全性は確立していない(未確立) タリビット点眼の一回量(一滴)には、主薬が約 0.15mg含まれています。タリビット内服の一回量(1錠) 100mgに比べ極めて少ない量です。

一般に、点眼薬でも全身的な副作用が出る場合があり、「点眼だから安全」と必ずしも言い切れない面もありますが、やはり内服に比べると、その影響力はずっと小さいと思われます。

措置は「有益のみ」表現で、妊婦が使用しても、まず問題ないと思います。
( )内は治療薬マニュアルで用いられている簡略表現

薬の話 No.35/H 12.11.02)

添付文書の表現法についてはこちら を ご参考ください。


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