薬の話


漫然と長期に投薬される薬剤

添付文書には「月余にわたって漫然と投与しないこと。」と記載されている薬剤がありますが、現実には「長期にわたって漫然と、同じ処方が続いているのでは?」と感じる場合も少なくありません。
たとえば病状が治まっているのに投薬が中止されず長く続いている、また他に有効な治療薬が無いためか、 病状が改善されないにもかかわらず 同じ薬が使われ続けている・・

患者さんに重大な副作用が現われている、禁忌投薬である、他院の薬と重複している、処方量の間違いが疑われる・・・そういった事は問題点がはっきりしていて、わたし自身もすぐに疑義照会しています。

しかし、目に見える副作用が起きているわけではない、ただ単に「長期投与」というだけでは問題点が非常にあいまいで、実際そのような処方箋に対し どのように対処すればいいのか、なかなか難しいのです。



薬剤師 / 管理薬剤師

:最近、老人の方の眼科の処方箋は、いつもタリビット点眼剤(一般名オフロキサシン;ニューキノロン系抗菌剤)が処方されていますね。長期にわたっているし・・・。長期に漫然と出し続けるのは、良くないと思います。耐性菌が出現する恐れがあると思うのですが・・。


:長期に漫然と処方、難しい問題ですね。
例えば、ステロイド点眼剤の リンデロンフルメトロンについて考えてみましょう。
これがもし長期に投与されていたらどうしますか?


:あまりそういった例はありませんが、やはり、ステロイド点眼剤の長期投与には問題が多いと思います。
最近は指導が厳しくなりましたが、患者さんが、病院の窓口で「薬だけ欲しい」といって、診察を受けずに毎回同じ処方箋を書いてもらってくる人がいます。
患者さん自身、強い薬だと気付かずに、ステロイドをさし続けている場合もあるかもしれません。

ステロイドが続いていたら、「今日は診察を受けましたか?」と、患者さんに確める必要があると思います。

:確かにそれは必要ですね。でも、患者さんが「診察を受けた。」と答えたら、どうしますか?



:先生が納得した上で、長期に出されている場合ですね・・。
ステロイドを長期に続けると、眼圧が上がる恐れがあるし、感染症にもかかりやすくなる恐れもあるでしょう。そういった意味で、長期投与は、やはり良くないと思いますが・・


:でも先生の所では、1ヵ月に1度、眼圧を測定していますし、また感染症にかかったかどうかは診察をしていれば分かるでしょう。

先生のそうした管理の下では、今言ったようなステロイドの副作用ならすぐ見つけられるので、長期に投薬していても問題無いということでしょうか??
そもそも長期とは、具体的にどれぐらいの期間を言うのですか? 添付文書では、どう書いていますか?

:・・・タリビットもリンデロンも、「長期に投与すべきではない。」と書いているだけです。



:そうですね。長期とはどのような期間なのか、具体的なことは何一つ書かれていないんです。
私たち薬剤師がただ単に「長期投与は良くないです。」とドクターに伝えても、ドクターは納得しないと思いますよ。そんなあいまいな言い方なら、薬剤師でなくてもできます。

ドクターに「その薬は必要だから出しているんです。」と言われれば、それ以上何も言えないでしょう。
ドクターも、病気を治療するのに一生懸命なわけですから、たとえば目に見える副作用が出ているなどの よほどの理由がない限り、薬を中止したり変更したりしないと思いますよ。
そんなドクターを納得させるには、長期投与が実際にどのような結果を起こすのかを示す具体的なデータが必要なんです。
言い換えれば、医師を納得させるだけの具体的なデータがないと、とてもドクターに進言などはできないと思いますよ。


○・・長期投与が必要、可能
△・・長期投与しない方が良い
×・・長期投与不可
長期投薬に関する薬剤師の考え
緑内障治療薬 レスキュラ、ミケラン、ピバレフリンなど
白内障治療薬 カリーユニ、タチオン
NSAIDs ニフランなど
抗菌、抗生剤 タリビット、エコリシン、サルペリンなど ×
ステロイド リンデロン、フルメトロン、サンテゾーンなど ×


たしかに管理薬剤師の言う通りです。しかし、長期投薬によりどのような不都合が起きるのか、具体的なデータは、手元にはありませんでした。


ある日、管理薬剤師は薬局スタッフ全員に、長期投薬に関する意識調査をしました。右は私自身の回答です。他のスタッフもだいたい私と同じような回答でした。
その後、眼科のドクターと懇談する機会がありましたが、その時、管理薬剤師がこの「薬剤師の意識調査表」をドクターにお渡ししました。


それに対しドクターは、抗菌剤については、老人は感染症で目やにが出やすく、抗菌剤の点眼が必要と考えていること、また耐性菌のことも考慮して、時々は抗菌剤の種類を変えてきたことなどを説明しました。
またステロイドについては、特殊な病例に限り、点眼を続ける必要があると説明されました。

しかし、その日をさかいに、確かに処方内容が変化したように思うのです。続いていた抗菌剤のタリビットが中止になる処方が続きました。2〜3週間して、またサルペリンなどの抗生物質が処方される場合がありましたが、患者さんにお聞きすると、また目やにが出始めたとのことでした。抗生剤が処方されていたのは、そのような患者さんに限られていました。

1人の患者さんに飲み切れないほどの多量の薬。
薬の入った大きな袋をお渡しする時、本当にこれらすべてが必要なのかと疑問を感じます。残念なことに、医薬分業として薬が院外に出た場合でも、処方される薬の量が減らないと感じるのです。長期に漫然と出されている薬も、そうした薬の数を増やしている1因のように思います。

長期にわたって同じ処方が続いている場合、その薬が「本当に必要で処方されている」のか、それとも「漫然と同じ処方が続いている」のか、薬剤師の立場では区別しにくいものです。
薬剤師の視点から「不必要」と思っても、実際 医師は「必要」と考えて処方している場合が多いと思うのです。

薬が本当に長期に必要な場合は、治療の中断が求められるほどの副作用が出現しない限り薬は続けられると思いますし、またその必要があると思います。

では、処方が漫然と長期に続けられている場合はどうでしょうか。患者さんに明らかな副作用が出ていなければ、薬を続けても問題ないのでしょうか?
・・副作用が出ていなくても、生体内ではいろんな問題が起きているかもしれないのです。
薬は生体にとって異物ですから、代謝や排泄に関わる肝臓や腎臓を徐々に傷めているかもしれません。また生体に少しずつ蓄積しているかもしれません。また、いつどんなかたちで予期せぬ副作用が起きるかもしれないのです。さらに藥で過保護にされることにより、からだ本来がもっている抵抗力、治癒力が弱まってしまうかもしれません。
・・・そういった意味で 、薬の使用は必要最小限にとどめなくてはいけないと思います。


ではどうやってこの微妙な問題点を医師に伝えればいいのでしょうか。
薬剤師に出来ることは、何らかの手段で医師に問題提起することだと思います。先ほどの例でも、「薬剤師の意識調査表」を医師にお渡ししたことが、結果的には問題提起につながったと思います。

このホームページをどれだけの患者さんがご覧になっているかは分かりませんが、私は、患者さん自身が自分の薬について主治医に質問を投げかけることで、漫然投与はある程度防げるのではと考えています。
「いつまでこの薬を飲むのですか?」「長期に飲んでいても大丈夫ですか?」
ドクターに対するこうした積極的な問いかけが、処方が見直される、あるいは不要な薬が中止されるきっかけになるかもしれません。

しかし、若い患者さんは先生に聞くことをためらわないのですが、年配の患者さんほど主治医に忠実で、とても質問など出来ない方が多いのです。

当薬局では、「服薬状況報告書」という、A5サイズの 簡便な報告用紙を常備しています。これは、患者さんのコンプライアンスの状況や、「これは主治医に報告しておいた方がいい。」と服薬指導時に感じた事柄などを記載し、主治医にフィードバックさせるものです。
長期投薬について、自分では主治医に聞きにくいという患者さんには、この「報告書」を利用して、薬剤師が主治医に伝えてもいいかもしれません。
ただ単に「長期投与が問題」というだけでは説得力に乏しいのですが、「患者さんが、薬を長期に続けることに不安を感じておられます。」の1文が付加されれば、重みも違ってくると思います。


薬の話 No.24/H 11.08.10)

 


TOP