薬の話


ACE阻害剤 と 咳

ゼストリル(一般名リシノプリル;持続性ACE阻害剤)は、昇圧物質として知られる アンジオテンシンUの生成を抑えることにより、降作用を示します。このACE阻害剤の副作用としては、「咳」 が知られており、当薬局でも 昨年、 ACE阻害剤によるものと思われる 咳の副作用例を経験しました。

患者さんに副作用と思われる兆候が見られた時、それが重大な副作用であれば すぐに主治医と連絡をとらなければいけないと思います。
しかし咳のような、重大ではない副作用の時、かえってその扱いにとまどうことが多いのです。


薬剤師1 / 薬剤師2 / 患者さん(79歳、女性)


ファックス受信した処方箋を見ながら、薬局スタッフと話しています。

:処方箋のファックスが届きました。あれ?今日はメジコンが出ていますね。
ゼストリルの副作用で、咳が出始めたのかなあ。


:これだけでは何ともいえないですね、今(12月)は風邪もはやっているし・・・
PLだけでは 咳に効かないので、それで メジコンが追加されているのかもしれませんよ。



先程の患者さんが、お薬を取りに来られました。



こんにちは、お薬は出来ていますよ。今日は新しい薬が出ていますね。風邪をひかれたのですか?


ファックス受信した処方箋
最初は 1)2)のみだったが、
1ヶ月前から ACE阻害剤の3)が追加、本日から新たに4)が追加されていた。
<院外処方せん>
1)エクセラーゼ  3 cap
 ラックビー微粒 3 g
   分3 毎食後 14日分

2) リスモダン(50mg)3cap
  分3 毎食後 14日分

3) ゼストリル(10mg)1錠
分1 朝食後  14日分

4)PL顆粒    3 g
 メジコン散   0.9 g
分3 毎食後 10日分


:ええ、咳がひどいんですよ。先生は、咳止めを出すように言われましたが。




そうですね、10日分出ています。先生は、咳について 何かおっしゃっていましたか。




最近は風邪がはやっているねぇ。ぼくも、ひいてるよ・・そうおっしゃってました。



そうですか。では、これを飲んで、様子をみてください





私も、しばらく様子を見ることにしました。
次に来局された時も、咳の症状は 改善されていませんでした。

そして、その次に来られた時は 咳がますますひどくなり、処方せんには 抗菌剤や 去痰剤が 追加されていました。
患者さんは服薬指導の時も、咳が出て とても苦しそうでした。

そこで私は思いきって、
「咳は、もしかすると、今飲んでおられる血圧のお薬の副作用かもしれません。先生と相談し、薬を変えてもらえるなら、そのように頼んでみてはどうでしょう。」と、患者さんに言ってみました。

すると、患者さんの顔は みるみる困惑した表情になってしまったのです。そして、「先生に言わなくても、メジコンを飲めば 咳が おさまるから大丈夫。」そう言って帰っていかれました。

私は、薬局内のスタッフと、再び相談しました。





:先程の患者さんのことですが、咳が副作用であるかもしれないので、先生に言ってみてはどうかと伝えたのですが・・とたんに、暗い表情になってしまわれたのです。




:副作用だと伝えたのですか?





:ええ・・ きょうは、薬も増えていたし、とても苦しそうだったものですから・・・



:79歳のおばあさんですよね。その世代の方々にとって、主治医に進言するなんて 重荷だったのではないでしょうか。



:そうですねぇ、かえって患者さんを苦しめてしまいました。



:ところで、あの患者さんは リスモダン(一般名ジソピラミド;Ta群 抗不整脈薬)も飲んでおられましたね。代替薬を選ぶのもむずかしいのでは・・と思っていたのですが、その点は大丈夫ですか?  ACE阻害剤に代わる降圧剤といえば、Ca拮抗剤やβブロッカーだと思いますが、これらは心臓(の刺激伝導や収縮力)を抑える方向の薬剤ですよね。リスモダンも心臓(の刺激伝導)を抑える薬剤だし・・それらを併用すると、心臓にとっては、あまり良くないのではないでしょうか。



:でも、Ca拮抗剤でも、たとえばアダラートのようなものは、血管には強く働きますが、心臓にはあまり影響ないと思います。おそらく代替薬の方は、あると思いますよ。


:この前、私が服薬指導した時は、患者さんが「以前手術した時は、心臓の専門医も立ち会った」といっておられました。患者さんに聞いてもはっきりしなかったのですが、この患者さんは不整脈以外にも心臓の疾患があるのかもしれませんね。そうなるとまた、薬を変えられるかどうかも難しい・・・しかし、いずれにしても 咳のことは 何らかの手段で先生に伝えた方がいいですね。電話で 直接指摘するより、手紙を書いて それを患者さんから先生に渡してもらう方が、角が立たず、素直に受け取ってもらえるかもしれないですね。


結局、こちらで 「咳が、ACE阻害剤の副作用である可能性があり、もし変更可能であれば 他剤に変更して欲しい 」という主旨の、主治医あての手紙を書いて 、患者さんにお渡ししました。患者さんに手紙をお渡しした時、初めて患者さんから安心の笑みがこぼれました。

2週間後、患者さんは 再来局されました。しかし、処方薬はゼストリルのままで、変更はありませんでした。
以下はその時の患者さんとの会話です。




:こんにちは。先日のお手紙について、先生は何かおっしゃっていましたか?



はい、あの日すぐにレントゲンを撮り、血液検査もしました。そして、「その結果が出たら他の内科医とも相談し、一番あなたに合った薬を選ぶ」と言われました。



:その後、検査結果が出た時、その結果については何かお聞きになりましたか?




:いいえ、何も聞いていないです。先生は、「薬についてはいろいろ検討した。咳は出るけど、結局この薬が あんたには一番合ってるから、この薬のままでいきましょう。血圧も、これを飲みはじめてから 落ち着いてきてるし。」と 言われました。




なぜ、ACE阻害剤がこの患者さんに最適なのか、その理由は 結局 私には分かりませんでした。
調剤薬局の薬剤師にとって、与えられた情報は、処方箋と患者さんの訴えです。その限られた情報の中で副作用を扱う難しさを、改めて感じたケースでした。





             



今回のケースで最も強く印象に残ったのは、手紙を受け取った時のドクターの対処でした。

咳のことを報告されると、まず、レントゲン検査や血液検査をされていました。
これがどういう意味を持つのか、推測しかできませんが、ドクターは 咳が出ている病因を調べられたのではないかと思います。

咳が出ていても、それが副作用によるものとは限りません。呼吸器系に異常があって咳が出ているのかもしれないのです。その病変の有無を調べ、無いことを確認してから、はじめて 咳がACE阻害剤の副作用によるものであると判断されたのではないかと思います。
その順序については、非常に理にかなっていると感じました。

さきほども書きましたが、調剤薬局の薬剤師にとって 情報源となるものは非常に限られています。それは主に、処方箋と 患者さんの訴えです。
そして、そんな狭い範囲で見ていると、すべての訴えが、薬の副作用に結びついてしまいがちなのです。しかし、私はそれで良いと思っています。
それは、裏を返せば、薬剤師が最も副作用を発見しやすい立場にいることを意味しているからです。
そして、副作用の疑いのあるものは、主治医に報告する・・・ そこまでが、いまの薬剤師にできることだと思います。

それから先の対処は 主治医に任せれば良いと思うのです。
主治医は、検査結果や病歴など、患者さんの全てのデータを持っており、全体を見渡せる立場にあります
そして、薬剤師から報告のあった副作用情報や その薬の取扱い、また今後の治療方針について、より広い 総合的な視野にたって検討し、決定されていくものと思います。

薬の話 No.19/H 11.04.26)


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