「赤と黒」
石田衣良
IWPの外伝。主人公は映像関係の仕事を持つ「小峰渉」。賭博に嵌り、池袋のカジノ売上金強奪に加担することとなる。成功はするのだが、結果的はとんでもない負債を背負い込んでしまう。もう俺の人生は無くなった。ならばと、開き直った小峰は一か八かの掛けに出る・・・
やくざの「サル」君が準主役級の活躍で、IWPの常連さんがぞろぞろと登場します。ファンには嬉しいサービス。果たして中身はどうだろうか? ちょっとだけ心配しておりましたが、要らぬお世話でございました。かなり楽しめました。IWPに較べてクライム色を強くしたような感じですが、その根っこは同じでした。マコト君と同様に「熱い」もの持ってますね、小峰君は。 どん底に落ちてお先真っ暗。そんな状態からの起死回生のホームラン!? 結果はみえみえでも、ハラハラドキドキしてしまいました。この感じが大切だと思います。
08 Feb 2004

「密林・生存の掟」
アラン・ディーン・フォスター
放浪のアメリカ人「スティーブ・ボハノン」は、PNG(パプアニューギニア)のポートモレスビーに立ち寄っていた。謎の美女「ロア・クラメル」と一夜を供にしたボハノンは、やがてPNGの密林の奥深く分け行くこととなる・・・
デミル「アップ・カントリー」で味をしめたので、再び東南アジアものに手を出しました。コミカルタッチで話が進み、この物語の落としどころは何処なんだろうか? と、かなり心配しながら読み進んだのですが、中盤で突然の転調。そこからは俄然面白くなり、終盤はなんとウルウルしてしまう場面まで登場。内容はテンコ盛りで、ジャングル、原住民、爬虫類、虫たち、そしてお宝探し。 なんか掘り出しものに出会えたって感じです。嬉しくなってしまいました。でも、ジャングルには行きたくないです。ホント、酷いところですよ。
08 Feb 2004

「クライマーズ・ハイ」
横山秀夫
地方新聞である北関東新聞の記者「悠木和雅」は、同僚の山男に誘われて谷川岳の衝立岩を登る予定だった。しかしその前夜、御巣鷹山に日航ジャンボが墜落した。
事故の全権デスクを任された悠木の目を通して、日航ジャンボ墜落事故の経緯が克明に語られる。反則技だよ、こ・れ・は。面白くない訳がない! 事故当時の地元地方新聞社の熱気がひしひしと伝わってきます。 その未曾有の大事故に絡めて、踊る大捜査線「事故は現場で起きているんだよ!」似のドロドロとした会社内部の確執と、悠木の親子関係の確執、倒れた山男「安西」との関係がやがて衝立岩登攀へと繋がっていく。否でも盛り上がってしまうラストなのです。んん〜ん、うま過ぎる。
ただし、俺的には「どうかな?」と考えてしまった。フィクションである分類の小説に、日航ジャンボ墜落事故の経緯をこれほどまで克明に語ってしまいって良いものだろうか。はっきり言って、どこまでが事実でどこからが作り物なのか判らないのですよ。もちろん当時の報道を生で見聞きした私はだいたい判りますよ。作者も判っているでしょう。この本を手にした大部分の人も判っているでしょう。でも、若い世代の人が読んだらどうなのでしょう? 事件の経緯を知らない人が読んだらどうなのでしょう? この大事故を語りたければ、きちんとフィクションとして出版すべきなのではないでしょうか。それを衝立岩と絡めて、合わせ技一本!的な小説にしてしまうなんて、ちょとずるくないかい? 面白かったからこそ、ちょとだけ要らぬことを語ってしまいました。聞き流してくださいまし。
08 Feb 2004

「アップ・カントリー(兵士の帰還)」
ネルソン・デミル
「将軍の娘」の主人公、ポール・ブレナーが再登場。軍を退役した彼に、元上司のカール大佐が仕事を依頼するところから物語は始まる。ヴェトナム戦争時、その最前線で、アメリカ軍のある大尉が同じく小尉を撃ち殺したとの情報が発見されたとのこと。ヴェトナム政府には内密で、目撃証人である北ヴェトナム兵を探し出し、事実関係を確認してくれというものであった。30年も前の殺人事件に今頃何故? 裏があるのは明白だ。胡散臭い仕事ではあったが、暇を持て余していたブレナーはホーチミン市へ飛んだ・・・
文庫上下で1600頁になる長編で、おまけにデミル未体験。購入時に躊躇したことは言うまでもない。不安が頭を過ぎりながらも頁を繰り始めた訳だが、終わってみれば寝食忘れてのイッキ読み状態だった。久々の冒険小説大作を心行くまで楽しむことができ、大満足でした。 「アップ・カントリー」とは、「田舎のほう」と言う意味である。ホーチミン市から入国したブレナーが、遥か遠く田舎の方へ旅する物語なのだ。旅の過程を懇切丁寧に記述したロード・ノヴェル。ミステリの本筋とは無関係とも思える旅行ネタばかりが続くのだが、これが実に楽しい。本当にヴェトナムを旅行している気分にさせてくれる。その大きな柱に、いろんな要素が複雑に絡みあって、一大娯楽作品に仕上がっています。 ヴェトナム語が堪能なアメリカ女性「スーザン」は、ブレナーを現地でサポートする役目を負っていますが、彼女は敵なのか味方なのか? 最後までグイグイと引っ張ってくれます。そして、ブレーナーとの恋の行方は? こちらも興味が尽きません。依頼主のカール大佐も、なかなか真実を語ろうせずに、ミステリ度を高めてくれる。ヴェトナム国家警察の切れ者マン大佐は、執拗にブレナーを追いかけながらその本意を探ろうとする。敵方ながら際立ったキャラの持ち主で、なかなか美味しいところを横取りしてくれます。社会主義国家故の制約下、大胆に突っ走るブレナーは数々の困難を克服できるのか? 果たしてブレナーは、時間制限内に証人に会えることはできるのか? スパイ諜報活動的なスパイスを効かせ、時にはラブストーリィとなり、過去のトラウマに決着をつける自己再発見の旅でもある。と、きっちりとツボを押えた物語設定はお見事としか言いようがありません。 くどいようですが、旅とは過程を楽しむべきもの。数々の観光スポットを廻る東南アジアの旅を、ブレナーとスーザンと共に楽しみましょう。とにかく面白くて大満足。これぞ2003年のベスト・ミステリだ。そして、「王者のゲーム」「将軍の娘」も俄然気になりだしたのである。
31 Jan 2004

「雨の牙」
バリー・アイスラー
本屋で立ち読みしてほとんど衝動買いだったのですが、いや、これが結構面白かった。 日米ハーフの主人公の殺し屋が東京で仕事をこなしつつ、ターゲットとして始末した男の娘と恋仲になって、大きな陰謀に巻き込まれる・・。 簡単な筋はこうなんですが、なんか気に入ってしまったんですね。 微妙にズレた日本観、おいおいそれはおかしいだろ、と突っ込みたくなるような描写もありましたが、それを差し引いてもなお私の心を満足させるものがありました。けっこうリアルなアクションシーン、東京の町の描写、日本人と米国人との間で揺れる主人公の心模様。これは意外と女性向けかも。ガイジンという言葉がやたら感じられる作品でした。
<S.T> 24 Jan 2004

「なみだ研究所にようこそ!」
鯨統一郎
インチキくさいサイコセラピストが、ヘンな症状に悩むクライアントの悩みを一挙解決!という連作集。 出てくるクライアントが、『イッコクドー憑依現象』(人形を見ると腹話術で話さずにいられない)だの、『ざぶとん恐怖症』だののみょうちきりんな症状なのが笑えます。 こじつけというか落語的な解釈がおかしく、何度か吹き出してしまいました。
<たけ> 19 Jan 2004

「殺戮」
ポール・リンゼイ
前作では少々やりすぎでは?と思わせる無能の上司達は影をひそめ、3作目はデヴリン捜査官の八面六臂の大活躍!そんなにうまくいくんかい?なんて疑問も吹っ飛んでしまう位、犯人との攻防戦がハラハラドキドキ、手に汗握って息が詰まってしまいました。後手に回っていた捜査側が犯人の仕事を未然に防ぎ、ついには追い詰めていくその過程が、まるで映画のように頭の中で展開していって迫力満点でした。 なぜかいつも一人で最終局面に飛び込んでいかざるを得ないデブリンは、ともすればスーパーヒーローみたいですが、そんな彼を常に常人の域にとどめているのは、妻のノックス。衝突しあいながらも心の底でしっかり信じあっている二人の姿と、家族を思いながらも自分の仕事を全うしようとするデヴリンの姿が殺伐な犯罪場面を救っています。
<S.T> 18 Jan 2004

「生誕際」
馳星周
舞台はバブル絶頂期の東京。ディスコの黒服をやっていた「彰洋」は、見違えるようイイ女になっていた幼馴染「麻美」に出会う。その麻美の紹介で不動産屋「美千隆」の元で働き始めた彰洋はやがて、地上げの神様と言われている「波潟」に出会う。その波潟は麻美の「パパ」であった・・・
全ては金のため。全ては自分のため。腹の底まで真っ黒な奴らの化かし合い。久々に焼け付くようなヒリヒリする感覚を味あわせてくれました。疲労困憊。 何十億の巨大な金が更なる大金を引寄せて増殖し、その匂いを嗅ぎつけて群がる不動産屋、暴力団、株屋、そして女。互いに策略を張り巡らし、騙しあい、そして見せかけの同盟を結び合う。バブル崩壊は近いのか? ババを引く奴はどいつだ? 女と薬に溺れ、皆と通じ、皆を裏切る彰洋に明日はあるのか? 身動きが取れなくなり、どうにかして生き延びようと画策する彰洋。がしかし、それが原因で更に状況は悪化する。徐々に加速する負のスパイラル。 ラストに向って畳み掛けるようにヒートアップしていく様は、お見事!としか言いようがありません。
18 Jan 2004

「世界の中心で、愛をさけぶ」
片山恭一
長男が買った本らしく、友達に貸して戻ってきた後に二男が読み、最後にカミさんが読もうとしていたものらしく、帯に女優柴咲コウさんのお薦め文。文字が大きいから2時間程度で読了。年甲斐も無くけっこうウルウルとしてしまいました。
高校の同級生「朔太郎」と「アキ」の恋物語。 初々しいです、眩しいくらいに。意外にミステリ色も入っていまして、おじいちゃんから依頼されたコソ泥大作戦や、夏の無人島大冒険など、結構楽しめました。 でも、悲しい話しだなぁ・・・
18 Jan 2004

「目撃」
ポール・リンゼイ
主人公がエリオット・ネスの再来みたいな硬骨漢で、おバカ(としかいいようがない)上司の妨害にあいながらも、黄金の7人みたいな仲間を呼び集めて複数の事件を同時進行で解決していく、爽快なストーリーでした。あまりにも上司連中が道化すぎてあきれてしまう感はありますが、個性的な登場人物(私は棒博士こと、ドクターがお気に入り。棒ってなんなのかみてのお楽しみ)がとっても楽しませてくれます。 作者がFBI出身だけあって、きっとこの作者は、自分の夢を作品にしてしまったのねって、微笑んでしまいました。 このシリーズ、あと2冊揃えてますので今月中にイッキ読みだぁ。
<S.T> 14 Jan 2004

「陽気なギャングが地球を回す」
伊坂幸太郎
嘘を見抜く名人「成瀬」をリーダーに、スリの名人、演説の名人、運転の名人からなる銀行強盗団。首尾良く仕事を終えた筈ではあったが、なんと別な現金輸送車襲撃犯と遭遇してしまった・・・
和製ドートマンダー・シリーズの登場と言えるでしょう。軽妙でシニカルな登場人物たちが笑わせてくれます。やっと日本でもこんな洒落た作品が出るようになったのですねぇ、と思わず頬が弛みます。こんな作品を待っていたのです、大歓迎なのです。 でもね、ちょっとばかり語り過ぎの感が否めません。語り過ぎて、大切なネタを披露し過ぎです!
しかしですよ、好感度は高く、今後の活躍に期待大なんだなぁ。
07 Jan 2004

「ブラヴォー・ツー・ゼロ」
アンディ・マクナブ
〜SAS兵士が語る湾岸戦争の壮絶な記録〜
1990年8月2日。イラク軍機甲部隊がクウェート国境を越えた。その数時間後、英SAS連隊は砂漠での軍事作戦の準備を始めていた。そして1991年1月、アンディ率いる8名のSASチームはヘリ・チヌークに乗り、前線を遥かに越えてイラク軍の懐に潜入していた。スカッド・ミサイル発射を阻止すべく・・・
潜入準備から始まり、緊張の夜間飛行、作戦失敗、極寒の逃避行、そして捕虜生活。圧倒的な迫力の実録である。ここには戦闘エリート集団SASの冷静で知的なノウハウと不屈のサバイバル精神があった。イラクに派遣されたばかりの日本自衛隊には、これほどの誇りと自負があるのだろうか? あるよね、きっと・・・
07 Jan 2004

「捕虜収容所の死」
マイケル・ギルバート
1952年。時は第二次世界大戦。イタリアの捕虜収容所が舞台。連合軍の捕虜達は脱走委員会の指揮のもと、密かにトンネルを掘り進めていた。とある朝、スパイ疑惑のある捕虜がトンネル内で死んでいるのを発見される。しかし、トンネルの入り口は巧妙な大仕掛けが施してあり、 4人の人間が揃わないと開くことはできないのだ。つまり・・・密室殺人事件。閉鎖的な捕虜収容所なのだから犯人も限られている。さぁ、「ゴイルズ」大尉の犯人探しが始まった。加えて、トンネルの開通も迫ってきていた。
はっきり言ってしまえば、名画「大脱走」に名探偵「ポアロ」が登場するような作品。当のポアロ君は聞き取りと推理の合間にトンネルを掘ったり、営倉にぶち込まれたり、すたこらさっさと脱出したりで、読む者を愉しませてくれます。 バランスの取れた小説で、スリルと本格派推理の要素を同時に味わえる奇蹟の名作との評判に間違はない。微妙で実に難しい問題をクリアした著者の力量は讃えられるべきだと思う。
話しは変わるが、十数年前、JAZZ界に颯爽と登場した「スタンリー・ジョーダン」と言う天才ギタリストがいた。なんと驚くなかれ1台のギターを右手と左手で同時に鳴らしてしまうのだ。 当時そのテクニックは各誌から絶賛されたのだが、ほどなくして噂は聞かれなくなった。「並みのギタリストが二人居れば事足りてしまう」からなのであった・・・
02 Jan 2004