特にお気に入りな海外の作品を紹介。これらは全て数回以上、繰り返して読んだ作品です。
最初はストーリーを追いかけて、やや斜め読み。次からは、落ち着いて細部までしゃぶり尽くす。
そんな読み方に耐えられる作品ばかりですから、自信を持ってお薦めします。
空いてる個所はネタバラシ。クリックしたままなぞってくださいな。
「深夜プラス1」
「羊たちの沈黙」
「A-10奪還チーム出動せよ」
「タイタニックを引き揚げろ」
「ジャッカルの日」
「シャドー81」
「鷲は舞い降りた」
「笑う警官」
「夢果つる街」
「熱砂の三人」
「脱出航路」
「荒鷲たちの挽歌」
「ハンニバル」
「闇よ、我が手を取りたまえ」
「俺たちの日」
「秘宝」
「さらば甘き口づけ」
深夜プラス1 <ギャビン・ライアル>

これぞミステリの金字塔!!!
フランスの田舎道、闇の中を疾走するシトロエンDSが目指すはリヒテンシュタイン!
運転手は主人公で元イギリス情報部員の「ルイス・ケイン」、
助手席にはボディガードでアル中のガンマン「ハーベイ・ロベル」。
一刻も早く、依頼主である後部座席の大金持ちとその秘書を送り届けねばならない。
それを喜ばない連中は、ヨーロッパトップクラスのガンマン2人を差し向けてきた。
ハーベイのS&W38口径が火を吹き、ケインのモーゼル銃が唸る!
全編これ名場面!と言いたいのですが、特に好きなシーンは、
ラストシーンです。アルコールと銃が両立出来ない事を知っている主人公が、
名実ともにヨーロッパNO.1のガンマンとなってしまった「ハーベイ・ロベル」の
利き腕を叩き潰す。この終わり方が最高なのです♪
非情な中に、男のやさしさが感じられます。
羊たちの沈黙 <トマス・ハリス>

これぞサイコ・サスペンスの金字塔。
難解な連続猟奇殺人事件解決の参考とすべく、FBI訓練生「クラリス」が、服役中の元精神科医で連続殺人犯のレクター博士に
助言を求めに行く。前述の事件だけでも充分に面白いのだが、彼が絡むことにより、数倍も不気味さが増してくる。
どちらがサイドストーリーなのか判らない、普通のミステリ2本分の密度がある濃い作品です。
全編これ名場面!と言いたいのですが、特に好きなシーンは、
何と言っても、レクター博士の脱獄でしょう。厳重な警戒の中で長い時間を掛けて合鍵を作り、
いざそのチャンスが到来すると、あっと言わせるトリックで見事に逃げ出してしまう。
SWATの隊員に運び出してもらうなんて、なんて頭が良いんでしょう。(感心!)
終わり方は、続編の匂いがプンプン。前作「レッド・ドラゴン」でも彼は登場しているので、
次も・・・待ち遠しい。
A-10奪還チーム出動せよ <S・L・トンプソン>

これぞカー・チェイスの金字塔。
ジャンルは、冒険小説。冷戦下の東ドイツが舞台。墜落したアメリカ戦闘機のパイロットと
最新秘密機器を回収した主人公が、ソ連軍諜報部と東独警察の包囲網を突破して、
ポツダムの米軍事連絡本部を目指す。頼れるのは、自分の腕と車だけだ。 深夜の凍てついた東独の山道を疾走するフォード・
フェアモントを、執拗に追う東独警察BMWの群れと諜報部のメルセデス!
全編これ名場面!と言いたいのですが、特に好きなシーンは、
前半にある米軍と東独軍の戦闘機による空中戦。
そして、フォードとヘリの戦いから、メルセデスとの一騎打ちへなだれ込むクライマックスです。
手に汗握る場面ばかりです、体調を整えてから読みはじめましょう。
原題は「RECOVERY」と言いますが、この邦題だけはもっと何とかならないでしょうか?
続編がいくつか出ていますが、やはりこのデビュー作がお薦め〜。
タイタニックを引き揚げろ <クライブ・カッスラー>

これぞ海洋冒険小説の金字塔。
ご存知、「ダーク・ピット」シリーズの代表作です。
タイタニックと共に沈んでいるある重要鉱物を手に入れるために、
船ごと引き揚げてしまおうと言うとんでもない物語。
全編これ名場面!と言いたいのですが、特に好きなシーンは、
引き揚げたタイタニックをめぐって、ソ連と争奪戦を繰り広げるところです。
並みの小説なら最後に引き揚げられて
めでたしめでたしで終わるはずですが、
なんと、物語の半ばで引き揚げられてしまいます。
そして、その後にアメリカまで引いて帰ってくる
場面が最高に面白いのです。
既に本シリーズも13作が発表されていまして、やはり最近はマンネリ化しています。
どんなに危機的状況でも生き延びてしまうダーク・ピット。
そろそろ人生の幕をおろす時ではないでしょうか?
ジャッカルの日 <フレデリック・フォーサイス>

フォーサイスの処女作品ですが、彼の作品群の中ではこれが一番!
ドゴール大統領暗殺を請負った殺し屋「ジャッカル」が目指すはパリ。
超一流のプロの知恵と技術で、幾重にも敷かれた検問を見事に突破し、着々とパリに近づいてゆく。
不眠不休で必死に追うのがフランス警察の「ルベル警視」。男と男の戦いだ!プロとプロの一騎打ち!
常に後手後手のフランス警察ではあったが、「ルベル」の知恵と執念がその距離を徐々に詰めてゆく・・・
ついに「ジャッカル」がドゴールをスコープに捕らえる時が来た!しかし1発目の弾が外れ、すぐさま2発目を撃つ時に、
とうとう「その距離」がゼロとなってしまうのだった。
ああ、無念!
「ジャッカル」を応援してしまうのは、私だけでしょうか?
シャドー81 <ルシアン・ネイハム>

ジャンルはサスペンス?それとも冒険小説でしょうか?とにかく面白い!
ロサンゼルスからハワイに向けて飛び立ったジャンボジェット機が、ハイジャックされた。
犯人はなんとミサイルを装備した最新鋭のジェット戦闘機に乗り、ジャンボの後方にピッタリと食らいついて政府に金塊を要求。
序盤はベトナムを舞台に戦闘機の奪取・運搬。中盤は緊張みなぎるハイジャック飛行。終盤はまたベトナムに舞い戻り後始末。
とにかく読み出したら犯人達を応援してしまうこと請け合いです。
全編これ名場面!と言いたいのですが、特に好きなシーンは、
アリバイ工作の為にベトナムに舞い戻る時に、運悪く友軍機に見つかってしまうところですね。
ボスは撃墜しようとしますが、主人公の「グラント」は邪魔をします。そして「金には代えられませんよ。・・・」
金塊の要求が囮なのも面白いですし、犯人達のボスもあっと驚く人です。
そして、ハイジャックが成功する小説なんて滅多に有りません。痛快です!!
おまけに最後には大統領が知らずに、犯人達の労をねぎらうなんて実に愉快。
でも、この文庫本の表紙だけは何とかならないでしょうか?思いっきり、ネタばらしなんですよね。
鷲は舞い降りた <ジャック・ヒギンズ>

戦争冒険小説の最高傑作!
ドイツSS本部のヒムラーのもとに「鷲は舞い降りた」の暗号電文が届いた。
チャーチル英首相誘拐の特命を受けた「シュタイナー大佐」率いるドイツ落下傘部隊の精鋭たちが、
イギリス東部の寒村に無事降り立ったのだ。イギリス兵に変装した彼らは、
女スパイとIRAの闘士「デブリン」の協力を得て、週末を過ごすためにやってくる
チャーチルを待ち受けるのだが・・・
全編これ名場面!と言いたいのですが、特に好きなシーンは、
やはりラストですね。計画が発覚して失敗に終わったかにみえるが、
シュタイナーは暗殺を目指して単身チャーチルの別荘に潜入する。そして
見事、チャーチルの前に立ちはだかった彼なのだが、引き金に指を掛けていながらためらってしまうのです。
「意に反することではありますが、わたしは任務を果たさなければなりません。」・・・
護衛に射殺されたシュタイナー見て首相は言った。「たとえどのようにいわれようと、
彼は、勇気のある立派な軍人であった。丁重に扱ってやってくれ、」
さらに最後には意外な事実が・・・
何のためにと疑問を抱きながらも、任務とあらば命を賭ける男たち。
そんな戦争のむなしさが伝わってきます。
笑う警官 <マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー>

警察小説シリーズの最高峰!スウェーデンから「マルティン・ベック」シリーズの代表作です。
初冬の冷たい雨に煙るストックホルムの夜遅く、二階建て路線バスがカーブを曲がりきれずに歩道を越え
鉄柵にのめり込んだ。運転手以下、乗客全員が犠牲者の、機関銃乱射による大量殺人事件の発生である。
なんと、その乗客の中にはベックの部下が一人含まれていた。狂人犯行説が有力ななか、
死んだ刑事の生前の行動を追うベック達の前に、やがて意外な事実が浮かび上がってくる・・・
妻とは家庭内別居中で、一人娘とも折り合いがうまくいかないストックホルム警察殺人課主任警視が主人公。
そんな悩みを抱えながら事件に立ち向かうベックと、個性溢れる部下達の奮闘を描いた全10巻のシリーズの代表作が本作品です。
本シリーズの魅力は、捜査過程の描写や会話がリアルでキメが細かいことはもちろん、
そんな等身大で人間臭い彼らが、
大量殺人事件・密室殺人・テロリスト対策などのバラエティに飛んだ事件に取り組むところにあります。
北欧の大都会を背景に、刑事稼業のやるせない哀愁が胸に染み込んできます。
Apr.11.1999
夢果つる街 <トレヴェニアン>

大都会モントリオールを舞台とする警察捜査小説の傑作。
各国の移民達が破れた夢を抱えて生きる吹き溜まりの地区、ザ・メイン。
この街を知り尽くし、ここに住む人達を誰よりも愛するラポワント警部補は、
20年以上も前に妻を亡くし、テレビも無いアパートで一人暮らしの質素な生活を送っている。
そんな彼の街で、11月のある晩見知らぬ男の死体が路上で発見される。
そして、たまたま預かってしまった新米のエリート刑事ガットマンを助手に、彼は捜査を開始する・・・
犯人探しの面白しろさを充分に楽しめることはもちろんですが、
ザ・メイン地区に住む人達、友人達とのカード・ゲーム、警察署長との確執、時代遅れの彼に反発する新米のエリート刑事ガットマン、
そして彼の部屋に転がり込んできた家出娘のマリー、それらさまざまな要素を折り込んだモントリオールの情景が、
ラポワント警部補の人物像を鮮明に浮かび上がらせます。
控えめな押さえたタッチで淡々とストーリィは進みますが、ラストの
雪の降る公園のベンチに座りひとり涙を流すラポワントのシーンは見事の一言に尽きます! 泣けます。
どっと涙が溢れてくること間違い無しです。どんどん泣いてください。
大人の情感に満ちた世界が待っています。
May.30.1999
熱砂の三人 <ウィルバー・スミス>

正統派冒険小説の傑作。
舞台は第二次世界大戦前夜の1935年。イタリアはムッソリーニの軍事政権が帝政エチオピアを狙っておりました。
そんな折り、イギリス人武器商人「ギャレス・スウェールズ」とアメリカ人技術者「ジェイク・バートン」は、
お互いに別々の目的で、イギリス政府から払い下げられるポンコツ装甲車「鉄のレディ」5台に目をつけていました。
しかし金儲けの為にはお互いの能力が必要不可欠となり、一致協力してエチオピアに鉄のレディ達の売り込みを図ります。
喉から手の出るほど装甲車の欲しいエチオピアは、購入の条件として彼らに鉄のレディ達を現地まで送り届けることを提示。
やがて、案内役のエチオピア人青年と、アメリカ人ジャーナリストで金髪の美女「ヴィッキー・カンバーウェル」を運転手に加えて
4両のレディ達はアフリカの奥地へと・・・
強大な敵であるイタリア機甲師団を指揮する「アルド・ベッリ」大佐は、イタリア有数の資産を持つ貴族であり、
現在の地位を金で築き上げた男。しかしその実体は戦争経験無しの臆病者というとんでもなく素晴らしいキャラクターを披露してくれます。
対するエチオピア軍は部族間の抗争を内在しつつ、槍と刀と鉄砲くらいしか持たない弱小軍隊。
それを指揮する90才を越える部族長「ラス・ゴラム」もまた素晴らしいキャラクター・・・
そんなアフリカの砂漠に装甲車を届けに行くわけですから、これが面白くない訳がありません!
冒頭からラストまで、あなたの熱き心をガッチリと掴んでくれること間違い無し。そして、
イギリス上流階級出身で常に冷静沈着な氷のような男「ギャレス」、熱くなったら誰にも止められない炎の男「ジェイク」、
勝ち気で聡明な金髪の美女「ヴィッキー」が織り成すラブロマンスも彩りを添えてくれます。
そんな本格冒険小説の全ての条件を満たした見事な作品です。
血湧き肉踊る砂漠の大冒険が、あなたを待っています。
Jul.04.1999
脱出航路 <ジャック・ヒギンズ>

これぞ海洋冒険小説のスーパー金字塔! (1976年)
第二次世界大戦の末期、密かにブラジルを出航した老朽帆船「ドイッチェラント」号は大西洋を北上し、
「エリッヒ・ベルガー」船長以下なんとしてでも祖国に帰りたいと願う男女29名を載せてドイツを目指していた・・・ 時を同じくして、
ドイツ軍の英雄であるUボートの艦長「ポール・ゲリッケ」少佐は不覚にも連合軍の捕虜となってしまった・・・
そして、元アメリカ海軍少将「ケアリー・リーブ」は、引退生活に堪えられずなんとか第一戦に返り咲きたいと悶々とした生活を送っていた・・・
そんな海の男達がそれぞれの運命の糸に操られ、縺れながらも引き寄せられていきます。
そして息つく暇も与えないほどの迫力で、まさに怒涛のうねりの如く、最後のクライマックスへ向けて一気になだれ込んでいくのです。
そのスケールの大きさ、構成の巧みさにおいては、前年度に発表された「鷲は舞い降りた」を遥かに凌ぐ、
人間愛に満ちた、かつ反戦の魂をガッチリと込めた作者入魂の作品と言えます。
涙を拭くのも忘れ、感動の嵐に身を委ねながら「あぁ、こんな素晴らしい作品に出会えた俺はなんて幸せ者なんだ」と、
歓喜に打ち震えてくださいな。
冒頭の「合衆国海軍少将 ケアリー・リーブの日記より」から抜粋。
「悲劇とも言うべき戦う事の虚しさをこれ以上たくまずして浮き彫りにしてくれた事件をわたしはかつて知らず、同様に、
このときほど同朋としての人間を誇らかに思ったことはない・・・。」
Oct.10.1999
荒鷲たちの挽歌 <ドゥエイン・アンキーファー>

これぞ航空冒険小説の金字塔! (1986年)
第二次世界大戦のドイツ軍が産んだ名機中の名機、メッサーシュッミットMe109G型。
なんとこの現代にそれら8機からなる飛行中隊が、アリゾナの砂漠に隠された飛行場に並んでいた。
その機体には鷲をあしらった中隊マーク。機首には20ミリ機関砲と7.9ミリまで備えており、
今や遅しと復讐の時を待ち構えていたのであった。
パイロット達は元ドイツ空軍の撃墜王たちばかりで、狙いは同じくアメリカ軍が産んだ名機ムスタング。
さぁ、30年を過ぎて再現される空中戦の行方は・・・
数ある航空冒険小説の中で、純粋に「飛ぶ」ことにこだわった希有な作品ではないでしょうか?
青春を戦争に捧げ、戦うことにしか己の生きがいを見出せない不器用な男達。
そんな元ドイツ軍の撃墜王達の熱き心を理解し、ガッチリと受け止める元アメリカ軍のパイロット達がまた素晴らしい。
最初のころは「飛ぶ」ことへの彼らの狂気に少なからずも違和感を抱いていた私ではありますが、
読み進むに従ってのめり込んでしまい、彼らの思い入れに共感を覚えてしまった自分が怖いです。
男って、幾つになっても子供なんですよね、それを忘れたら・・・
著者は「Code Sakura」なる本も書いているようです。
これって、想像なんですが「ゼロ・ファイター」が登場するのではないでしょうか? 読んでみたいあなぁ。
Oct.24.1999
ハンニバル <トマス・ハリス>

あのサイコ・スリラーの金字塔「羊たちの沈黙」の7年後のお話。1999年。
クラリス・スターリングは、前作での活躍が元でFBI中枢部から疎まれた存在となっていた。
そんなおり、麻薬捜査中の犯人射殺がもとでマスコミから叩かれ、
捜査官としての道を絶たれようとしていた彼女を救ったのは、
至高の怪人「ハンニバル・レクター」博士からの1通の手紙であった・・・
頭蓋骨の裏まで見透かす鋭い洞察力、驚くべき知性・教養の高さ、と同時に併せ持つ冷酷な狂気と迸る残忍さで、
一躍全世界のミステリファンの心を掴んだレクター博士。
「羊」後の彼はいったいどうなるのか? と、
10年間も待たされ続けたレクター・フリーク達のイライラが頂点に達しようとするこの
世紀末。見事なまでに読者を裏切った(良い意味での)仰け反るような続編がやってまいりました。
あぁ、誰がこのような結末を想像できたでしょうか。改めてハリス殿の筆力に感服!
DNAを彷彿させる緻密な二重螺旋的な構造の一端を担った「バッファロウ・ビル」に取って代わり、
今回新たに登場する人物は博士の犠牲者で唯一の生き残りである大富豪で変態の「メイスン・ヴァージャー」。
博士が悶え苦しみながら死ぬことだけを夢想する復讐の鬼と化した彼は、
その財力に物言わせ、用意周到かつ残虐な罠で博士を追い詰めます。
そして変態の狂気と人肉食の狂気が壮絶にぶつかり合い、
二人の狂気が昇華?された後、そこには
桃源郷のような善悪の区別すらない究極の世界が訪れます。
最早何人であれ近づく事の出来ない甘美な世界。
中世ヨーロッパを敬愛する美食家レクター博士の「記憶の宮殿」に迷い込み、
静かなる狂気の世界に存分に浸ってくださいな!
おっと最後に一言、「触らぬ神に崇り無し」。
Apr.30.2000
闇よ、我が手を取りたまえ <デニス・レヘイン>

最高にスタイリッシュなハードボイルド! 1996年。
「スコッチに涙を託して」で鮮烈にデビューを果たした私立探偵「パトリック&アンジー」と武器密輸屋「ブッパ」が帰ってきた!
今回はマフィアから命を狙われている男の母親が依頼人。その依頼を引き受けるということは、誰が考えても完璧な自殺行為。
その時、迷うパトリックにアンジーが見事に言い切ってくれた!「なに? 永遠に生き続ける気でいるの?」と。
くぅ〜、痺れます。
そして、時を同じくして発生する残虐な殺人事件。
一見無関係に思えたこの事件が実は・・・ と、謎はドーチェスターの暗黒時代へと時を溯り昏迷の度合いを急激に深めていきます。
血と暴力と狂気に満ちた世界を、怒涛の如く駆け抜ける疾走感に満ちたストーリィ。
久々に、ページを繰る手のもどかしさを痛感させられたハイ・リーダビリテイ。
人間の持つ心の暗部をグサリとえぐる現代的なテーマ。
簡素な文体とナイスな会話の見事なブレンド。
パトリック&アンジーのプラトニックな関係を横糸とすれば、男の友情を縦糸に、幼馴染、血縁地縁関係を斜めに紡ぐ複雑な人間関係。
純粋だったころの少年時代の香り。
そして全てが過ぎ去った後の静けさに思わず涙する、ラストシーンの雪。
人間兇器ブッパの活躍が前作ほどでなかったことだけが、唯一の不満ですが、極上のハードボイルドにノックアウト〜☆
堪能しました。両手を揚げて万歳! やっと自分のフィットするハードボイルドに出会えた!って感じです。
このシリーズ、アメリカでは既に5作まで出ております。2作目でここまで昇りつめてしまったら、後の3作はどうなるのでしょうか?
マジで心配してしまいますが、4作目の "Gone, Baby, Gone" がシリーズ最高との評判。早く邦訳されることを待ちましょう。
Jun.11.2000
俺たちの日 <ジョージ・P・ペレケーノス>

情感たっぷりと謳い上げるハードボイルド。1996年。
時代は第二次世界大戦直後のワシントンDC。私立探偵ニック・ステファノスの祖父の時代である。
主人公のギリシャ系移民「ピート・カラス」は、幼馴染みの「ジョー・レセボ」と共にギャングの手下として働いていたが、
組織に反発していることを理由に足を折られてしまう。
それから3年後。ピートがコックとして働くニック・ステファノス(孫と同じ名前)の店に、
ボスの片腕となったジョーが現れた・・・
自分が生まれ育った愛する街並み。その空気と喧騒。
子供時代からの友情で固く結ばれた仲間たち。
愛する妻、子供、親。
そして、信頼し合える仕事仲間たち。
これら全てをきっちりと描き込みながら、誇りたかき男達の生き様を見事に謳い上げております。
しかもですね、溢れんばかりの情感を押さえ気味のタッチで、じわ〜っと語ってくれるのですよ。
前半は、少年時代のエピソード・海兵隊員として日本軍相手の戦闘・ニックの店員の生い立ちなどがメイン。
なんの脈絡もない短編の羅列のように感じますが、中盤を過ぎたあたりからこれが徐々に効いてくるのです、まるでボディブローのように。
張り巡らしておいたさりげない一節が、随所で宝石のような輝きを放ち始め、独自の世界を作り上げてしまうのです。
この叙情的な奥深い世界こそが、ペレケーノス氏の得意技。毎度の事ながら実に旨いと言わずにはおれません
。
ストーリィはニックとギャングの対立を軸に、その狭間に揺れ動くピートとジョーの友情の行方を追いますが、
連続売春婦殺人事件を絡ませることでサスペンス度が高まり、思わぬ方向に急展開。
感動のラストに向って雪崩れ込んでいきます。で、その直前、深夜のワシントンをドライブする一節が秀逸。
彼の目を通して語られる街の暖かさ、いつもと変わらない日常生活を送る人々、友人達、そして母親。
それら全てが静かなる決意を感じさせ、涙流さずにはいられない至福のシーンです。
このまま時よ止まって欲しいぃ!と思わせながら、やがて・・・
これぞ90年代を代表する、心震わせる男達の物語だ。
※ 次作品「愚か者の誇り」では、ピートの息子「デミトリ・カラス」とその親友「マーカス」が登場。
その次「明日への契り」では、「マーカス」が主人公となり、本作品を含めた3部作を形成。
既に本作品の前には「私立探偵ニック・ステファノス」3部作が存在しており、
今年になって邦訳された「生への帰還」はなんと、両3部作の集大成! ワシントン・サーガの完結だそうな。
Nov.03.2000
秘宝 <ウィルバー・スミス>

お宝探し冒険小説の王道を行く作品。1995年。
場所はエジプト。考古学者「ドライド」とその妻で同じく考古学者「ローヤン」は仕事の傍ら、
4千年前にファラオの奴隷「タイタ」が記したパピルスの巻物10巻の解読に取り組む毎日であった。
そして、その全容が朧げではあるが解明された夜、二人の家は何者かに急襲を受け、全ての資料とドライドの命が奪われる。
残されたローヤンは彼の遺言を守り、財宝コレクターでイギリス貴族「ニコラス」と手を組み、秘境エチオピアへ財宝探しの旅に出る。
それは、古代の天才タイタとの壮絶な知恵比べの幕開けでもあり、夫の命を奪った謎のコレクターとの戦いの始まりでもあった・・・
これは面白い、面白すぎる。アフリカ大陸からヨーロッパ大陸を又にかけ、
古代エジプトまで時空を遡る桁違いにスケールの大きな冒険活劇で、1000ページを越える大作なのだけれど、
全くだれる事なく最後の最後まで心臓バクバクもののストーリーテリングが実にお見事。
ニコラス自からが序盤に説明してくれます。
このプロジェクト全体は個別の3つのステージに分けられる。
第1ステージ:財宝の位置を確定するための下検分。
第2ステージ:二度目の現地入り。自前のスタッフ・装備を揃えて発掘。
第3ステージ:戦利品を持って極秘裏にエチオピアから脱出。
と、三つの大きなクライマックスを、
スリルとスピード感に満ちた数え切れないほどの冒険が連続で繋いでいるのです。
全知全能を振り絞って果敢に挑むローヤンとニコラスの前に立ちはだかるは、
古代チェスの名手タイタが仕掛ける2重3重(いや5重以上あっただろうか)の謎と罠。
その謎解きミステリとしての面白さに加え、
執拗に追いかけてくる謎のコレクターの魔手が活劇度を高め、刻々と迫るアフリカ自然界の脅威がタイムリミット的面白さを盛り上げます。
更には、美貌のローヤンと貴族ニコラスの恋、ニコラスの旧友「メク」の恋と復讐劇が加わり、
揚げ句には、裏切りあり、大空での活劇あり、川下りあり、水中に潜む怪魚、財宝争奪の白兵戦、etc ・・・
といちいち数え挙げたらきりがない。
つまり、希代の冒険小説家「W・スミス」の作品群の中でも(全部読んでいるわけじゃないけど)屈指の出来であり、まさに神懸り的な超面白冒険活劇なのだ。
彼の代表作「虎の目」もお宝ものでは有名ですが、こんなに面白かっただろうか?
近いうちに再読して確認しなければいけないなぁ。
これぞ、D・ピットも真っ青、I・ジョーンズ博士もぶっ飛ぶ超娯楽エンターテイメントで、
冒険小説ファン必読の超大作だ。
※ 本作品中に登場の "River God" はフィクションであり、前作にあたる作品。
近々邦訳されるとのことです、楽しみに待ちましょう。
Mar.06.2001
さらば甘き口づけ <ジェイムズ・クラムリー>

香り高い傑作ハードボイルド。1978年。
酔いどれ私立探偵「C・W・スルー」は、
酔いどれ作家「トラハーン」捜索の依頼を元夫人から請け負った。
やがて、酔いどれ犬「ファイアボール・ロバーツ」と供に西海岸の酒場で飲んだくれている彼を見つけた。
その酒場のマダムから行方不明の娘「ベティ・スー」捜索の依頼を新たに請け負ったスルーは、
酔いどれ作家と酔いどれ犬を伴なって旅に出る。
キャディラック・コンヴァーティブルとワイルド・ターキイ1クォート
たっぷり入った瓶といっしょに・・・
久々の徹夜本に遭遇。
素晴らしい読後感に浸りながら、静かなる早朝にひとりバーボンなんぞを煽ってしまった。旨い!
クラムリー本人が「彼の小説がこの世になかったら、私の小説は根本的に別なものになっていただろう」と語っているように、
本作品はチャンドラー「長いお別れ」へのオマージュである。
酔っ払いテリーが足をブラブラしている冒頭のシーンに対して、
カウンターの上の灰皿にそそいでもらったビールを舐めるファイアーボール。
どちらも鮮烈な印象を与える見事な書き出しだ。これは長く記憶に留まるな、きっと。
そして、感動のラスト。「長いお別れ」では泣けなかったけど、本作品では涙がじわぁ〜と込み上げてきましたよ。
それは、事件を冷静に解決する路線から大きく逸脱し、
過剰な思い入れを伴なって没入してしまうあまりに、
身も心もボロボロになるスルーの生き様が破滅的であり、かつ愛に満ちているからに他ならない。
それを詩情豊かに、奥深く、美しく語ってくれるのだから、こりゃ堪らないぜ。
スルーに関わってくる人間たちの性格描写もしっかりしているし、酒を飲むシーン、ラブシーンも良し。
ドタバタ的銃撃戦も充分に楽しませてくれた。特に、銃撃戦用に登場する脇キャラが私のお気に入りかな。
50年代がチャンドラー、そして70年代をクラムリー、90年代はペレケーノス。
事件がメインだった私立探偵小説。
その後、探偵本人の私生活がメインとなり事件そのものは脇役に押しやられていく。
そんな変貌の過程を垣間見ることが出来きます。 源流を辿れば、そこには巨匠チャンドラー。
「恐るべしチャンドラー」を久々に実感。
でも、クラムリーが登場しなかったらペレケーノスの作品群はまた別なものになっていたでしょう。
んん〜ん、「クラムリー恐るべし」と言うべきか。
犬好き、酒好きなハードボイルド・ファンには堪らない逸品だ。
Sept.02.2001
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