3.4 Con Aの固定化

腫瘍紬砲表面の塘脂質と特異的親和性を有する、レクチンの一種である、Con Aについても、エマルションへの固定化を検討し、その固定化量を調ベた。Con Aの固定化は、二次乳化剤と同時混合して乳化する、二次乳化法によった。IgGの場合と同様、ゲルフイルトレーション法により、Con Aの固定化量を測定した。その結果、W/O/Wエマルション1gあたり、約1mgのCon Aの固定化が、確認された。

さらに、Con Aの、エマルション脂質膜中への取り込みを、蛍光位相差顕微鏡によって観察した。

試験管中で、蛍光ブローブANSにより修飾したCon Aを、エマルションに固定化して、そのエマルションを蛍光位相差顕微鏡によって観察する手法をとった。その結果、図8に示すようにエマルションが、Con Aに固定化したANSによって蛍光を発していることが縁察できた。このことからエマルション表面にCon Aが取り込まれたことが蛍光法によっても確認された。

3.5 表面修飾エマルションの特異吸着実験

 これまでに述べたようなリガンドで、表面修飾したエマルションの、疑似抗原への特異吸着能を検討する実験を試みた。

 固定化IgGの配向をコントロールした(Fabフラグメントを外側に向けた)エマルションの、腫瘍抗原へのターゲティング実験を行うことが理想的であるが、抗原の入手が困難であったため、今回は図9に示すように、担体に、1gGをインキュベート法で固定化したものを抗原とみなし、この疑似抗原に対して、ブロテインAを固定化したエマルションの特異吸着能を調べた。この際、超微粒子型エマルションは、通常の光学位相差顕微鏡では親察できない。そこで、エマルションの脂質膜表面に、蛍光物質であるANSを固定化し、蛍光位相差顕微鏡によって観察する方法をとった。

図9プロテインA固定化エマルションの固定化IgG担体への特異吸着実験の模型図

 中央に円形状のくぽみのあるプレパラート上に、IgGを固定化したセルロースキューブを浮遊させ(溶嬢には蒸留水を使用)、その中にプロテインAを固定化した超微粒子型エマルションを含む懸濁液を加えた。エマルションが担体に結合する様子の親察を容易にするために、ブロテインAを固定化した大粒径工マルション(通常倍率の位相差顕微鏡で観察可能)も、少量混入させた。なお、用いた担体は、バイオマテリアル杜のセルロースキュープ担体BY−H03Nである。

図10(a)の写真は、そのエマルションの特異吸着を示す蛍光位相差顕微鏡写真である。また、図10(b)に、この写真を説明するための模型図を示す。写真から分かるように、その但体界面近傍で強く青色の蛍光を発しており、ANSでラベルした超微粒子型エマルションがこの近傍に集積していることがよく分かる。また、プロテインAを固定化した大粒径エマルションも、IgG固定化セルロースキュープ担体へ結合している様子が直接観察できる。

図10プロテインA固定化エマルションの固定化IgG担体への特異吸着実験の蛍光顕微鏡写真とその模式図:(a)蛍光顕微鏡写真:(b)図10(a)の模式図

 このように、プロテインA固定化エマルションが、有効にターゲティング機能を発現することが判明した。したがってIgGに対する抗原が表面を覆っている腫瘍系においても、1gG固定化エマルションが有効にターゲティング機能を発現できることが容易に推察できるが、この系のテストを今後工夫して行いたい。また、先に述べたCon A固定化工マルションと、糖脂質含有リボソームとの特異的吸着実験も同様の手法で行った。この特異吸着実験の模型図を図11に示す。

図11 Con A固定化エマルンョン及ぴ抗原に特異結合したCon A固定化エマルションの模型図

 この実験において、糖脂質を含む大型の凝集りボソームを抗原モデルとして用いた。上記のIgGの場合と同様、フレパラート上で、位相差顕微鏡により、その特異吸着を観察した。なお、観察を容易にするために、超微粒子型エマルションの代わりにCon Aを固定化した大粒径エマルション(通常倍率の位相差顕微鏡で親察可能)を用いた。

 その特異吸着を示す位相差顕微鏡写真を図12に示す。このように、糖脂質含有リポソームの周辺に、Con A固定化エマルション(大粒径エマルション)が吸着している様子が直接観察できる。このように、エマルション表面に固定化されたCon Aが、糖脂質との特異吸着能を有していることが明らかになった。したがって、大粒径およぴ超微粒子型のエマルションを含めて、Con Aを固定化したエマルションが、糖脂質を多量にその表面に含有する腫瘍細胞に対して、ターゲティング能を発現し、DDSに有効であることが期待できる。

図12 Con A固定化エマルションの糖脂質含有リボソームへの特異吸着実験の位相差顕微鏡写真

4.結言

 人体に投与可能で、完全分散した超微粒子型のW/O/Wエマルションを新規に調製することに成功し、エマルションのDDSへの応用を検討して、次の知見を得た。

I)エマルションの形状は、脂質一液体膜としての一枚膜を有し、粒径が約30、60nmの超微粒子型エマルションを調製することに成功した。

2)エマルションの内水相中に、高い含有率で物質を包括することが可能であり、また薬物を包括してもエマルションの安定性は優れている。

3)細胞壁付着型の不溶性ブロテインAの固定化に成功した。このエマルションに、IgGのFabフラグメントを、エマルション表面の外側に配向させて固定化できた。さらに、Con Aの糖脂質結合サイトを失活させろことなく、エマルションの膜表面にCon Aを固定化すろことができた。

4)プロテインAおよぴ、Con Aをそれぞれ固定化した超微粒子型エマルションが、優れた夕一ゲティング能を有し、DDSの薬物キャリヤーとして利用できる可能性を示した。

【謝辞】 この研究に際して、勤的光散乱法によるエマルションの粒径を測定していただいた、駒沢勲教授、久保井亮一教授(阪大・基礎工)、電子顕微鏡撮影をしていただいた立石憲彦助手(愛媛大・医)に謝意を表します。

【参考文献】

1)東海林洋子、水島裕、亀谷哲治:リヒッドマイクロスフェアーとMM46腫瘍細胞との親和性.薬学雑誌106;605−608,(1986)

2)堀尾武一、山下仁平:タンパク質酵素の基礎実験法,南江堂(1981)

3)Kato.K,N.Yamasaki alnd Y.Nakashima:Solvent Extrantion Conference'90)Elsevier,1827(1992)

4)加藤敬一、森戸了一、平尾洋:化学工学第28回秋期大会要旨集,A306(1995)


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