2000年2月20日(日)2時開演〜東京文化会館小ホール
お問い合わせ:オフィス小野寺 03-5649-2525(ゴロヨクニコニコ) チケット前売:全席指定5000円/チケットぴあ 03-5237-9990
東京文化会館チケットサービス 03-5815-5452
「心のふるさと」 大木惇夫・江口夜詩 「朝」 島崎藤村・小田進吾 「椰子の實」 島崎藤村・大中寅二 「むかしの仲間」 木下杢太郎・山田耕筰 「春の唄」 喜志邦三・内田元 「海ゆかば」 大伴家持・信時潔 「大日本の歌」 芳賀秀次郎・橋本國彦 「白百合」 西條八十・大中寅二 「旅愁」 岩田九郎・大中寅二 「かへり道の歌」 竹中郁・古関裕而 「隣組」 岡本一平・飯田信夫 「用心づくし」 岡本一平・服部正 「南進男兒の歌」 若杉雄三郎・古関裕而 「歩くうた」 高村光太郎・飯田信夫 「めんこい小馬」 サトウハチロー・仁木他喜雄 「朝だ元氣で」 八十島稔・飯田信夫 「子を頌ふ」 城左門・深井史郎 「御朱印船」 北村秀雄・清瀬保二 「あゝ紅の血は燃ゆる」 野村俊夫・明本京静 「勝ちぬく僕等少國民」 上村数馬・橋本國彦
藍川由美「NHK國民歌謠〜われらのうた〜國民合唱を歌う」
1999年2月27日(土)2時開演〜津田ホール
椰子の實(昭和11年7月13日放送)島崎藤村・大中寅二 白百合(昭和13年11月21日放送)西條八十・大中寅二 旅愁(昭和14年11月27日放送)岩田九郎・大中寅二 アリューシャンの勇士(昭和18年1月26日放送)西條八十・大中寅二 海ゆかば(昭和12年11月12日放送)大伴家持・信時潔 國こぞる(昭和13年10月3日放送)金子基子・信時潔 母の歌(昭和12年5月20日放送)板谷節子・橋本國彦 學徒進軍歌(昭和18年11月23日放送)西條八十・橋本國彦 勝ちぬく僕等少國民(昭和20年1月21日放送)上村数馬・橋本國彦 歩くうた(昭和16年1月20日放送)高村光太郎・飯田信夫 朝だ元氣で(昭和16年10月25日放送)八十島稔・飯田信夫 子を頌ふ(昭和17年10月10日放送)城左門・深井史郎 御朱印船(昭和18年8月24日放送)北村秀雄・清瀬保二 あゝ紅の血は燃ゆる(昭和19年6月25日放送)野村俊夫・明本京静 出征兵士を送る歌(昭和14年11月13日放送)生田大三郎・林伊佐緒 海の進軍(昭和16年5月9日放送)海老沼正男・古関裕而 突撃喇叭鳴り渡る(昭和19年5月1日放送)勝承夫・古関裕而 特別攻撃隊「斬込隊」(昭和20年4月1日放送)勝承夫・古関裕而
本日のコンサートについて 藍川 由美 昨年2月、初めて「NHK國民歌謠」による演奏会を行ないましたところ、思いもかけず、たくさんの楽譜やレコードが送られてまいりました。そもそも「國民歌謠」のコンサートは、戦時下の音楽研究の一環として、一回だけのつもりで行なったのですが、次第に皆様からお送り頂いた貴重な資料を死蔵させては申し訳ないとの気持ちが強まり、今回は「NHK國民歌謠〜われらのうた〜國民合唱」という流れを辿ってみることにしました。私は「國民合唱」の楽譜を一曲も持っていなかったので、皆々様からの資料提供なくしては実現不能の企画でした。 日本の歌の研究者としては恥ずべきことですが、昨年楽譜を送って頂いて初めて、私は《海ゆかば》の全容を知りました。《海ゆかば》は、昭和12年10月13日から一週間放送された『國民精神總動員強調週間』で「國民唱歌」として発表された後、11月12日の「國民歌謠」でも放送されました。「國民歌謠」は、新作だけでなく、《曉に祈る》のような映画主題歌まで取り上げていたのです。 また、昨年頂戴したアンケートでは、かろうじて曲名だけは知っていた《あゝ紅の血は燃ゆる》を希望される方が多かったのですが、ピアノ伴奏付きの楽譜が見つかりませんでした。やむなくプログラムから外そうとしたところ、評論家の八巻明彦氏が「週報」と一緒に楽譜をお送り下さったのです。 困ったことに、わが国では、こうして資料を提供して下さる方々のお力添えなくしては、わずか半世紀前の作品を演奏することさえ難しいのです。しかし、近代日本の音楽の流れを辿っている私にとって、この時期の作品研究は欠くべからざる仕事です。皆々様の御厚情に感謝致しつつ、今後もさらに楽曲研究を続けてまいりたいと思います。 ただ、残念ながら、「國民歌謠」レコーディングの目途は未だ立っておりません。国家や放送局などが封印しておきたいものを白日の下に曝そうというのですから、それだけ抵抗も大きいということでしょう。 戦後、ドイツでは、ナチス政権下の芸術作品を検証する動きがありましたし、中国では、このところ、文革時代の歌を諷刺した歌も聞かれるようになりましたが、その時代を体験していない者にとって、当時、歌がどのような役目を背負わされていたかを検証しようとすることは、決して無駄ではないと思われます。 先日、友人から、「うちの父は戦争に行っていたのに、あなたが歌った古関裕而の戦時歌謡のCD『レクイエム』を聴かせたら、半分以上の曲を知らなかった」と言われました。 当時は前線にもレコードや楽譜が届けられていたと聞いていますが、こうした歌は、内地の人々に前線の苦労を伝えたり、今の貧困に耐えるよう訴える役目の方が大きかったのかも知れません。 戦時中の歌を単なる国策音楽と決めつけることは簡単です。が、自国の歌なればこそ、歌詞や音楽に込められた、もっと深いメッセージを読みとることも可能なわけで、ここに戦時中の歌を掘り下げて研究する意味があると私は考えます。 さて、本日のプログラムは、前半を東京音楽学校出身の作曲家、後半を独学あるいは東京音楽学校出身者以外の作曲家の作品で構成しました。 最初は、《椰子の實》の作曲者として知られる大中寅二の作品です。國民歌謠の《白百合》《旅愁》に続き、昭和18年の國民合唱《アリューシャンの勇士》では、「北の守備(まもり)」につく兵士達への感謝の気持ちを忘れるな、との詩に作曲しています。大中の抒情的な作風も、戦局を反映して変容していったことがわかります。 《海ゆかば》で知られる信時潔は、当時としては前衛的な十二音技法などの作品研究も 行なっていましたが、自身は終生ドイツ古典主義的な作風を貫きました。《國こぞる》 も、《海ゆかば》と同じ端整な書式で作曲されています。 当時の東京音楽学校はドイツ音楽が主流でした。しかし、フランス近代音楽に傾倒していた橋本國彦の登場で、わが国の音楽界にも新風が吹き込まれたのです。戦時中の橋本の作品には、《大日本の歌》のように「東京音楽學校曲」として発表されたものも少なくありません。國民歌謠《母の歌》、國民合唱《學徒進軍歌》《勝ちぬく僕等少國民》といった橋本の歌に共通しているのは、彼独特の和声感といえましょう。 後半は、《隣組》の作曲者として知られる飯田信夫の《歩くうた》で始まります。高村光太郎が「歩け」のリフレインを用いて書いた詩が、この曲調を決定づけたのではないでしょうか。同じ飯田の《朝だ元気で》もリクエストの多い曲でしたが、当時の楽譜を見ると、現在ではずいぶんと歌詞が変えられていることに気付きます。なお、飯田は、大中や宮原禎次らとともに、山田耕筰のアシスタントをつとめたこともあります。 深井史郎や清瀬保二もいわゆるクラシック畑の作曲家で、深井の《日本の笛》、清瀬の《土の歌》などは日本歌曲のレパートリーになっています。特に、簡潔なスタイルによる清瀬の日本歌曲に触れてきた私にとって、南進論を歌った《御朱印船》のピアノ・パートの動きと、彼らが「國民合唱」を作っていたという事実には驚かされました。 《あゝ紅の血は燃ゆる》の作曲者・明本京静は、昭和9年に古関裕而が作曲した《いとしのアミー》の作詞者であり、それを歌った歌手でもありました。昭和19年に國民合唱として書かれたこの作品の行間には、今なお、「學徒動員」という言葉の持つ凄烈さ が滲み出ているように感じられます。 《出征兵士を送る歌》の作曲者・林伊佐緒も、明本京静と同じく自作を歌っていますが、その歌唱には、軍歌のリズムパターンとまでいわれた「ピョンコ節」が生かされています。それは、単に「ハヅム」のではなく、一音一音を重い拍で取る日本的な歌い方です。 最後は、勇壮なマーチを得意とした古関裕而の作品です。國民歌謠《南進男兒の歌》は、かねてより戦後の《栄冠は君に輝く》と曲調が似ていると言われてきましたが、たしかに古関の戦時歌謡の多くは、オーケストラかブラスバンドで演奏すれば、運動会や体育祭で演奏してもおかしくない、華やかなマーチに聞こえます。その中で、國民合唱《特別攻撃隊「斬込隊」》だけは、まるで敗戦を暗示するかのような音楽に仕上がっています。 そもそも歌とは、詞曲が不離不可分の融合体としての芸術作品でなくてはなりません。が、戦時中は曲を先に書いてあとから歌詞を付けたり、別の歌詞にそっくり変えることもありました。《お山の杉の子》も《汽車ポッポ》も《朝だ元気で》も、戦後は歌詞を変えられ、曲だけが生き残ったのです。こうしてみると、戦時中の歌に関しては、歌詞は文芸、曲は音楽という視点で、分けて論ずる必要があるのかも知れません。 近代日本の歌の歴史の中でも、この時代の歌は、もっとも注目されるべき特殊なジャンルを形成しているといえるでしょう。(1999.2) |
藍川由美「NHK國民歌謠を歌う」
1998年2月23日(月)7時開演〜津田ホール
椰子の實(昭和11年7月13日放送)島崎藤村・大中寅二 ふるさとの(昭和12年2月1日放送)三木露風・斎藤桂三 春の唄(昭和12年3月1日放送)喜志邦三・内田元 母の歌(昭和12年5月20日放送)板谷節子・橋本國彦 愛國の花(昭和12年10月18日放送)福田正夫・古関裕而 萬歳ヒットラー・ユーゲント(昭和13年8月23日放送)北原白秋・高階哲夫 白百合(昭和13年11月21日放送)西條八十・大中寅二 出征兵士を送る歌(昭和14年11月13日放送)生田大三郎・林伊佐緒 紀元二千六百年(昭和14年12月18日放送)増田好生・森義八郎 かへり道の歌(昭和15年1月29日放送)竹中郁・古関裕而 曉に祈る(昭和15年4月8日放送)野村俊夫・古関裕而 南進男兒の歌(昭和15年9月2日放送)若杉雄三郎・古関裕而 英靈讃歌(昭和15年1月15日放送)山崎真基人・山田耕筰 燃ゆる大空(昭和15年5月20日放送)佐藤惣之助・山田耕筰 隣組(昭和15年6月17日放送)岡本一平・飯田信夫 用心づくし(昭和15年8月19日放送)岡本一平・服部正 火の用心(昭和15年12月2日放送)相馬御風・中山晋平 めんこい小馬(昭和16年1月27日放送)サトウハチロー・仁木他喜雄